【超入門】注目のBLE長距離通信機能『Coded PHY/Long Range』を学ぶ
こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら)
Bluetoothで長距離通信を実現しようとした場合、Bluetooth 5.0以前では送信出力を上げる方法(≒Class1を選択する)しかなく、最終製品の平均電流も大幅に増えてしまう課題がありました。しかし、Bluetooth 5.0以降からは新たに導入された長距離通信機能『Coded PHY(Long Range)』を使うという選択ができるようになりました。そこで本日は、Coded PHYに関する基礎的な部分を解説し、さらに実際の通信テスト結果をご紹介します。
PHYとは?その種類とは?
Bluetoothの構造は層(レイヤー)になっており、一番下のベースレイヤーをPHY(フィジカルレイヤー、日本語では物理層)と呼びます。Bluetoothはフィジカルレイヤー(PHY)からスタートし、その上位層であるリンクレイヤー、アプリケーションレイヤーとレイヤー間を経由してBluetooth通信を行っています。
そして、BLE(Bluetooth Low Energy)には3つのPHYが存在しています(2022年5月現在)。従来から存在するノーマルタイプの1M PHYに加え、Bluetooth 5.0からは高速化を可能にする2M PHY、そして長距離化を可能にするCoded PHYが新たに加わりました。
- 『1M PHY』はノーマルタイプ
- Bluetooth 4.0から標準搭載
- 『2M PHY』は高速化タイプ
- Bluetooth 5.0から導入
- オプションで対応可
- 『Coded PHY』は長距離化タイプ
- Bluetooth 5.0から導入
- オプションで対応可
通信距離と通信速度はトレードオフの関係?
この新しく導入されたLong Range機能『Coded PHY』は、例えるならば離れた相手に対して『よりゆっくり、よりわかりやすく話すようなもの』です。
具体的には、各パケットに誤り補正用のデータをプラスすることで、送信電力を増やすことなく、より長い距離で、且つ信頼性の高い通信を実現しています。
PHY | 1M | Coded S=2 | Coded S=8 | 2M |
---|---|---|---|---|
データレート | 1 Mbps | 500 kbps | 125 kbps | 2 Mbps |
通信距離倍率 (イメージ) | 1 | 2 | 4 | 0.8 |
Bluetooth 5 仕様 | 標準 | オプション | オプション | オプション |
具体的な数値を基に、各PHYを比較します。上表をご覧ください。
PHYは大きく3種類存在するとお話しましたが、Coded PHYについては更に2つに大別することができます。Sと呼ばれるパラメータを2または8に設定することでデータレート(通信速度)と通信距離倍率が変わってきます。
標準である1M PHYのデータレート 1 Mbpsと比較し、Coded PHY S=2の時は 500 kbps、Coded PHY S=8の時は125 kbpsと、Coded PHYはデータレートが低下していきます。一方、通信距離倍率は1M PHYを1とした場合、Coded PHY S=2の時は 2倍、Coded PHY S=8の時は4倍に上がっていきます。つまり、Coded PHYでは通信距離を長くするために、ゆっくりわかりやすく送信する必要があり、結果、データレート(通信速度)が低下します。よって、通信距離と通信速度はトレードオフの関係になります。
Coded PHYに関する実際の通信テスト結果について
①Coded PHY/Long Range機能の通信距離調査
LINBLE-LR1を使って、実際に通信テストを行いました。このテスト結果からわかったことは大きく3点あります。
1点目は、Coded PHYを使用することで見通しの良い場所では約2-300mレベルでの相互通信接続が可能であることがわかりました。
2点目は、先述の通り、標準の1M PHYに比べてデータレートが一番早い2M PHYでは、通信速度が早い代わりに、通信距離が短いといったトレードオフの関係を示す結果が得られました。
3点目は、たとえCoded PHYを使用したとしても、経路損失(電波環境が悪い)によって、大きく通信距離に影響を及ぼすことがわかりました。
②AndroidスマホのCoded PHY対応状況調査
デバイス | 結果 |
---|---|
Google Pixel 5 | NG |
Galaxy S10 | OK |
OPPO Reno5 A | OK |
Xiaomi 11T | NG |
Xperia Ace Ⅱ | NG |
AQUOS sense6 | NG |
LINBLE-LR1を使って、AndroidスマートフォンとCoded PHYでの接続可否をテストしてみました。その結果、2022年1月時点で入手可能な比較的新しいAndroidスマートフォンであっても、Coded PHYに対応しているのは一部の機種に限られていることがわかりました。
Coded PHYはBLEのオプション機能であり、Bluetooth 5.0以降のデバイスであっても、Coded PHYに対応しているとは限りません。カタログスペックだけでは判断せずに実際の端末にて動作確認することが肝要です。