環境発電(エナジーハーベスティング)とBLE
こんにちは。ムセンコネクト三浦です。
今日は、環境発電(エナジーハーベスティング)とBLEについてご紹介します。
環境発電(エナジーハーベスティング)と、省電力な無線通信であるBLE(Bluetooth Low Energy)はとても相性がいい組み合わせです。
IoTの分野では、環境発電(エナジーハーベスティング)への注目度が高まっています。
環境発電(エナジーハーベスティング)とは?
環境発電とは、私達の周囲の環境から微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)して、デバイスを動作させる為の電力に変換する技術のことです。
「エナジーハーベスティング(エネルギーハーベスティング)」とも呼ばれています。
光・熱(温度差)・振動・電波など様々な形態で環境中に存在するエネルギーを集めて電力に変換します。
再生可能エネルギーとの違い
類似した言葉に「再生可能エネルギー」というキーワードもあります。こちらはメガソーラーや、水力発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電など、もっと大規模な発電に使われることが多いです。
イメージではちょっとした「発電所」であり、一般家庭に送電して通常の電力として利用します。
また、通常の電力インフラが届かない局所的な地域にある施設や設備で利用される場合があります。
僅かな電力を集めて、固有のデバイスをようやく動かすような小規模なシステムについては「環境発電(エネルギーハーべスティング)」というキーワードを使うことが一般的です。
IoT分野での期待
IoTの分野では、デバイスを動作させるための電源が常に課題になっています。
常時給電する為にはコンセントが必要ですが、期待する場所にコンセントがない場合があります。また多くのデバイスを配置する為、コンセントに有線接続するのは取り回しが大変です。
かといって、二次電池を利用すると充電の手間がありますし、一次電池を利用すると電池交換の手間があります。
IoTの究極像では、ありとあらゆるものにセンサを取り付けてデータを取得することが求められます。
その世界観の中では、有線から開放され、充電や電池交換の手間から開放された、メンテナンスフリーなデバイスが理想です。
IoTデバイスに環境発電(エネルギーハーべスティング)を取り入れることによってメンテナンスフリーで数十年間動作し続けるようなデバイスを作ろうという動きが活発化しています。
アンビエントIoTとは?
環境発電(エネルギーハーべスティング)の技術を活用して動作するIoTデバイスやシステムのことを「アンビエントIoT」と呼びます。
アンビエントIoTは、環境モニタリング、ウェアラブルデバイス、スマートホーム、インフラ監視など、様々な分野での応用が期待されています。
環境発電(エネルギーハーべスティング)の発展がアンビエントIoTの普及を支え、アンビエントIoTの普及がエネルギーハーベスティング技術の更なる発展を促すという相乗効果を生み出しています。
「Ambient(アンビエント)」は、「周囲の」とか「環境の」という意味です。
もちろん「環境発電(エネルギーハーべスティング)を利用したIoT」という意味合いがあります。
加えて「Ambient(アンビエント)」は、「雰囲気」とか「生活に溶け込んだ」というニュアンスがあります。
充電や電池交換を意識する必要がなく、IoTデバイスやシステムが当たり前に普段の生活に溶け込んだ世界観がアンビエントIoTの究極形といえます。
環境発電(エナジーハーベスティング)の予備知識
環境発電とBLEの詳しい解説に移る前に、まずは環境発電について理解を深めます。
環境発電の種類
環境発電のエネルギー源には以下のような種類があります。
太陽光・室内光エネルギー
太陽光パネルを利用して太陽の光や室内の照明の光から発電を行います。
「太陽光パネル」は「ソーラーパネル」や「太陽電池」などとも呼ばれます。
安定して電力を収集できる為、現在の環境発電の分野の中で最も実用化例が多いのがこの太陽光・室内光エネルギーを利用したものです。
太陽光パネルに利用する主な材料は「シリコン系」、「化合物系」、「有機物系」の大きく3つに分類されます。
室内でよく利用される「色素増感太陽電池」や、最近ニュースで取り上げられている「ペロブスカイト型太陽電池」は「有機物系」の太陽光パネルです。
熱エネルギー
物質の両端に温度差を生じさせたとき、両端の間で電位差が発生するゼーベック効果を利用しています。
ペルチェ素子という素材を使うのが一般的で、素子の表と裏の温度差から発電します。
工場などの排熱を利用して発電するセンサデバイスや、人体の皮膚に貼り付けて体温と外気温の温度差から発電するウェアラブルデバイスなどが考えられます。
力学的エネルギー
振動や踏み込んだ圧力を利用した発電方式です。
橋梁、工場の加工機、乗り物など継続して振動があるような環境での活用が期待されます。
発電の原理としては、ピエゾ素子を利用した圧電発電、エレクトレットによる静電型振動発電、電磁誘導型の振動発電、磁歪型の振動発電などがあります。
電波エネルギー
環境中に存在する電波を受信して電力として利用する場合と、送信機から給電目的の電波を送信して受信機がそれを受信して利用する場合があります。
前者は、電波を受信して直流電力に変換するレクテナ(Rectifying Antenna)を利用して動作電力に変える仕組みです。地デジの電波やWi-Fiなどの通信用の電波を利用することが検討されていますが、十分な電力を収集するにはまだ課題があるようです。
後者はワイヤレス給電とも呼ばれています。「送信機から受信機に対する無線による電力伝送」と言ったほうがイメージが合っています。
特にIoT分野では、920MHz帯を利用した空間伝送型ワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transfer)が期待されています。
その他のエネルギー
その他にも、静電気を利用した発電方式や、土壌に生息する微生物を使って発電する方式などが研究開発されています。
環境発電(エナジーハーベスティング)の処理の流れ
環境発電(エナジーハーベスティング)の処理の流れは、次のように5段階に分類されます。
どんな環境で、どんな方式で発電をするかを決め、発電素子を利用してエネルギーを生成します。
①で生成したエネルギーは、電圧が大きすぎたり、小さすぎたり、安定していなかったり、(交流であれば)整流する必要があったりします。まずはこれを利用できる電力に変換します。
②で変換した電力は瞬間的な微小な電力でありそのままでは利用できません。後段の処理が動作できる程度にコンデンサや二次電池に電力を貯めます。
③で貯めたエネルギーをダムのように後段の処理に流します。この時、期待する電力が貯まったことを確認してから流したり、後段の処理が使いやすい電力に変換してから流します。
④で配電されたエネルギーを使ってセンサやマイコンを動作させます。IoTでは概ねの場合、何らかの環境情報をセンシングして、センシングしたデータを無線通信で送信します。
電力損失と電力収支
環境発電(エナジーハーベスティング)を成り立たせる為に考えなければならないのは電力損失と電力収支です。
②、③、④の処理ではどうしても電力を損失(ロス)してしまいます。
これを如何に損失(ロス)を無くして高効率にするかが、技術的なポイントになります。
また全体の電力収支で言うと、②~⑤の処理で利用・ロスする電力より、①の電力が大きくなる必要があります。
① ≧ ( ②のロス + ③のロス + ④のロス + ⑤の消費電力 )
その為には、⑤の消費電力をできるだけ抑えることが重要です。
⑤の消費電力を抑えるには、省電力なセンサを利用したり、省電力な無線通信を利用したり、間欠動作の間隔を長くしたりすることが考えられます。
環境発電(エナジーハーベスティング)とBLE
環境発電(エナジーハーベスティング)で得られる電力はとても小さいものです。
その電力を集めて貯めて、ようやく少しだけセンシングと無線通信の動作ができるのです。
その中で、センサ、マイコン動作、無線通信の消費電流を如何に抑えるかが重要になってきます。
もし、これから環境発電(エナジーハーベスティング)に取り組もうとしているのでしたら、無線通信に省電力なBLE(Bluetooth Low Energy)を利用することをお勧めします。
特にBLEの接続通信を行わず、ブロードキャスト型であるビーコン通信を利用してセンサデータを送信する方式がお勧めです。ビーコン方式であればビーコンの発信間隔を変更するだけで電力状況に応じて平均消費電流を下げることができます。
BLEは数ある無線通信の中でもトップクラスの省電力性能を持っています。無線送信時のピーク電流も低く、環境発電の弱い電源事情の中でも動作が可能です。
BLEの無線チップ(BLE SoC)はマイコンとしての機能も持っているものが多く、BLE SoCがあればセンシング動作からマイコン動作、無線動作までワンチップで行うことが出来ます。
更に、スマートデバイスとの親和性が高いこともポイントです。iPhone、Androidスマートフォン、Windowsパソコン、Raspberry PiのようなLinuxボードなど、多くのデバイスにBLEビーコンを簡単に受信する仕組みが整っています。
まとめ
IoTの分野において、環境発電(エナジーハーベスティング)は注目の技術です。
本当の意味でのIoTの普及には環境発電(エナジーハーベスティング)がカギを握っていると言っても過言ではありません。
環境発電(エナジーハーベスティング)はまだ発展途上の技術です。
今後、発電素子の発電量が増大し、無線通信の消費電流が下がることで、大きく普及していくことになるでしょう。