【サルでもわかるBLE入門】(4) BLEビーコンによる位置測位
こんにちは。ムセンコネクト三浦です。
今回も「サルでもわかるBLE入門」と銘打ってお話していこうと思います。BLE初心者の方でも理解をしてもらえるように、できるだけわかりやすく解説していきます。
前回の『BLEビーコンの基礎』に引き続き、今回は『BLEビーコンを利用した位置測位』について、深掘りしてお話します。
わかりやすく解説する為に、BLE初心者にはあまり必要ない例外的な内容は省略して説明するようにしています。
また、あえてアバウトに書いている部分もありますのでご承知おきください。
(厳密な技術的内容を知りたいような方は別の解説書を参考にしてください。)
BLEビーコンによる位置情報
『BLEビーコン』の黎明期では、スマートフォンを持った一般利用者向けに来店ポイントやクーポン配信などを行う販売促進の用途が大半でした。
最近では業務用として、工場や物流倉庫などで作業者の位置測位用途など利用シーンに大きな違いが出てきました。
屋外では、GPSを利用して作業員の位置を把握することが容易に実現できますが、屋内ではGPSの電波が届かなくなるため、作業員の位置を把握するには別の技術が必要になります。屋内での位置測位の技術は未だデファクトスタンダードな技術が登場していません。
そのような状況の中で、BLEビーコンを使った位置測位技術は期待値が高い手法の一つです。
スマートフォンがビーコンの電波を受信した時に、アプリ側ではRSSIという受信した電波の強さを確認することができます。そこから発想すると『スマートフォンが受信した電波の強さ』と『スマートフォンとビーコンの距離』が相関関係にあると考えられます。
ビーコンからの距離が遠いほど受信電波強度(RSSI)は弱くなるという原理を利用した、ビーコンの電波で簡易的な距離測定(測距)方法ができます。
更に、複数のビーコンから測距ができると、空間上でスマートフォンが今居る位置が推定できます。予めビーコンの設置位置がわかっていて、それぞれのビーコンからの距離がわかれば、交わる1点が計算できるという算段です。
このような測位方式のことを3点測位と呼びます。
※RSSIや換算した距離の値はイメージを掴むための例です。
ID:001のビーコンからの電波が -80dBm(距離に換算すると10m)
ID:002のビーコンからの電波が -75dBm(距離に換算すると5m)
ID:001のビーコンからの電波が -65dBm(距離に換算すると3m)
ここまで言うとビーコンを使った位置測位が簡単にできそうな気がしてきましたが、実際は思ったようにうまくいかないものです。
BLEビーコンによる測位・測距の難しさ
宇宙空間のような何もない所(自由空間)では、受信側には直接波だけが受信されるので、距離が離れる程RSSIが弱くなります。
しかし、実際には地面があるので、直接波と反射波が受信側に届きます。この時、距離によって直接波と反射波が強め合って受信される場所があったり、弱め合って受信される場所があったりします。
更に、実空間では天井があったり、壁があったり、机や棚があったり、もっと複雑な反射を経て受信側に届きます。
下記は実際に距離計測した例です。青い点でプロットされているのが実測データです。
大枠で捉えると距離が離れる程RSSIが小さくなっていますが、マルチパスの影響でRSSIが強めに出ている所、弱めに出ているところがあります。
例えば距離が15mの時のRSSIと、7mの時のRSSIが同程度となっています。これではRSSI値から距離を正確に算出することはできません。
このように反射波の影響でRSSIが変動してしまう現象をマルチパスフェージングと呼びます。
実空間では必ずマルチパスフェージングが発生してしまいます。ビーコンを利用して精度の高い位置測位が実現できない理由の一つになっています。
ビーコンを利用した測角型の位置検出
ビーコンのRSSIを利用して『精度の高い位置測位』を実現することが難しいということをお話しました。
しかし、スマートフォンとの親和性やコスト感を考えると、BLEを利用した位置測位は捨てがたい選択肢です。そんな中、Bluetooth 5.1ではRSSIを利用しないで位置測位を行う方法として、電波の位相を利用する仕組みが新たに組み込まれました。
AoAやAoDと呼ばれる位相を利用した測角技術に利用されます。
電波は空間を波のように伝わっていきます。BLEは2.4GHzの周波数なので、約12.5cmで位相が一回転する波として伝わります。
昔からレーダーなどで利用されている技術ですが、電波を複数のアンテナで観測して、それぞれのアンテナで受信した位相差を確認すると電波がどの方向から飛んできたかがわかります。
下図のように正面から電波が到来した場合は2つのアンテナで同じ位相が観測されますが、ななめ方向から電波が飛んできた場合は2つのアンテナで位相が変わって観測されます。その観測された位相差から逆算することで電波の到来方向がわかるというのが電波を利用した測角技術になります。
これを、AoA(Angle of Arrivalの略です。電波の到来方向推定)と呼びます。
送受信を逆にすると、AoD(Angle of Departureの略です。電波の出発方向推定)という言い方になります。
屋内測位として利用するにはフィールドに複数のAoA受信機を用意して、それぞれの受信機で測角を行い、それらの推定角度を統合して位置解析を行います。
測角型はRSSIに頼らない位置測位技術です。環境やシステム構成によっては高精度での位置測位が期待できます。
ただし、測角型であれば反射波の影響を全く受けないというわけではありません。むしろ障害物には弱く、電波の通り道に障害物があると正しく測角ができなくなります。
また、測角型は単純なRSSIによる測位と比べると複雑ですし、高いノウハウが必要です。Bluetooth 5.1が発表されてから1年以上経ちますが、各社から具体的なサービスが発表されていないのは、その技術的な難易度によるものと思います。その中でも『Quuppa社が登壇したBluetooth 5.1に関するセミナーレポート』および『ピクシーダストテクノロジーズ社のAoA方式位置測位サービス』をご紹介します。導入事例も多数報告されており、ご興味あればご覧ください。
まとめ
結局、ビーコン位置測位ではRSSIを使えばいいの?、測角を使えばいいの?ということになりますが、現状では測角型を検討するにはまだ時期尚早であり、RSSIを使ったビーコン位置測位しか現実的ではありません。
位置測位といえば高精度を求めがちですが、本当に高精度な測位が必要なのか再検討してみるのも良いと思います。再検討してみると、5メートル程度の誤差があっても許容できるというような声も意外と多く聞こえてきます。
精度を気にしない用途であればRSSIを使ったビーコン位置測位でも十分有用なシステムになる可能性があります。
また、どちらが良いといことではなく、一長一短ある様々な手法の中で、使用環境に合わせて選定したり、組み合わせて利用するのが一般的です。
モーションセンシングから人の歩行軌跡を解析するPDR(Pedestrian Dead Reckoning)という技術を組み合わせることも有効性が高い方法になっています。
今回でビーコンについてのお話はいったん終わりにして、次回はBLEの技術要素について少し深堀りして解説していきます。