IoT化・無線化をイチから考える(3)IoTの醍醐味、クラウド集約
こんにちは。ムセンコネクトの三浦です。
前回はスマートフォンのアプリがIoTデバイスからのデータを直接受信して表示するパターンについて説明しました。
このパターンでは、スマートフォンとの親和性が高い近距離無線を利用することが重要でした。
今回はクラウドにデータを蓄積するパターンについて説明します。
クラウドに蓄積したデータは、主にスマートフォンに標準的にインストールされているブラウザで表示することになります。ブラウザで表示しているだけなので スマートフォンはIoTデバイスとの無線接続性を意識しなくても良く、安定した長期稼働システムに向いています。
蓄積されたデータを表示するにはブラウザが使えれば良いので、普段利用しているパソコンでも利用できます。Android、iOS、WindowsなどのOSの違いも気にする必要がありません。
上の絵の通り、更に2つのパターンに分けて考えた方がわかりやすいです。 キャリアが設置した基地局を利用し直接クラウドへ送信するパターンと、自分で設置したゲートウェイを中継してクラウドへ送信するパターンです。
①キャリアが設置した基地局を利用して直接クラウドへ送信するパターン
②自分で設置したゲートウェイを中継してクラウドへ送信するパターン
①キャリアが設置した基地局を利用して直接クラウドへ送信するパターン
この場合、長距離通信を利用することになります。選択肢となるのは3GやLTEといった携帯電話回線を利用した通信と、SigfoxやLoRaWANなどの事業者敷設型のLPWA通信です。通信事業者の回線設備を利用するため、月額/年額の通信料を支払う必要があります。
3G/LTE
3G/LTEはdocomo、KDDI、Softbankの3キャリアの他に、MVNOと呼ばれる格安SIM事業者があります。SORACOMやさくらインターネットなどのIoT専用を謳う事業者もありますので、それぞれの特徴や料金体系を調べて選択するのが良いでしょう。
月額の通信料がかかる他に、製品に組み込む通信モジュールやアンテナ、SIMスロットなどの部品が高額なので、コストに見合うだけのIoT化の付加価値を見出し、事業として成り立たせるのは難しい課題となります。
コストの面をクリアできるのであれば、日本全国に張り巡らされた通信網は安定しており、とても魅力です。上り通信(UpLink)、下り通信(DownLink)とも高速な通信が可能で、通信データ量も大きいデータを扱える為、機器の稼働データを緻密に送信したい場合にも向いています。
最近では、通信速度が遅くなる代わりに、月額通信料や通信モジュールの費用を抑えたLTE-M、NB-IoTという新しい通信が出始めています。
また、この分野では数年後に5G通信が本格化します。この辺は後日詳しく説明したいと思いますが、5G通信は次世代動画転送や自動運転だけではなく、実はIoT向けにも最適化された規格になっています。
Sigfox
LPWA(Low Power Wide Area)を利用した通信網です。フランス生まれの通信規格で、省電力で通信距離が長いのが特徴です。日本では京セラコミュニケーションシステムが唯一の通信事業者となっています。2017年からサービスを開始し、すでに携帯電話回線に迫る広いエリアでサービスを提供しています。( 2019年2月時点での人口カバー率94% )
10km以上の広い通信範囲と、乾電池でも動作する省電力性が強みですが、1度に送れる通信データ量は12byteと非常に少なく、通信速度が低速な通信です。また、UpLinkは1日に140回までと決められています。通信規格として「制限が多い」という言い方もできますが、逆に「よく統制されている」通信網だとも言えます。特に広域通信では、正しく統制されていないとシステム全体に致命傷を与える可能性があります。
Sigfoxは通信モジュールのコストが比較的安価で、年額の通信料も安価です。低価格なデバイスに組み込むのに向いています。
広域にばらまいて、30分毎にセンサデータを収集する農業用のセンサシステムや、スマートメーターの検針、GPSと組み合わせて輸送物の位置を把握するシステムなどで利用するのが最適です。
産業向けだけではなく、 コンシューマ向けのデバイスを考えるときにも選択肢に入りそうです。
LoRaWAN
LoRaWANは日本ではSORACOMやセンスウェイなどが通信事業者となっていますがサービスエリアがまだ広がっていないのが現状です。
全国くまなく通信できることを目指しているというよりは、そのシステムを使う地域やエリアをしっかりカバーできるように、システム案件毎に基地局を配置することを狙っています。必要なエリアで通信精度が良くなるように基地局を設置できるのが強みです。
通信モジュールの価格やサイズ、消費電流はSigfoxとあまり大きく変わりませんが、通信網のスタンスが一番の違いとなります。場合によっては自ら通信事業者となり基地局を設置して通信網を運営することも可能です。
LoRaWANの場合、自由度が高い分、統制が取りづらいというデメリットを考えておく必要があります。他のLoRaWANを利用したシステムが同じ通信エリアで同じ通信帯域を利用している場合に、電波障害が起きる可能性が考えられます。
局所的なエリアに展開するシステムの場合はLoRaWANは良い選択肢になるでしょう。
②自分で設置したゲートウェイを中継してクラウドへ送信するパターン
この構成の場合は、通信事業者を介さない通信となります。デバイスもゲートウェイも開発者がコントロールできるので、利用する通信の選択肢は無数にあります。その中で幾つか選択肢を挙げるとすると、Bluetooth Low Energy、無線LAN、LoRaプライベートを候補として挙げたいと思います。
Bluetooth Low Energy(BLE)
Bluetooth Low Energyを利用した構成は、前回の講座で説明していますが、それと同じような構成になります。スマートフォンがゲートウェイに置き換わったイメージですね。ゲートウェイは表示機能がないので、受信データをそのままクラウドサーバーへ送信しクラウド側にデータを蓄積します。
スマートフォンを利用したシステムとデバイスを 共通で 利用することもできるので、将来性を考えて柔軟性なシステム構成にすることができます。
無線LAN
こちらも、前回の講座で説明した内容と似ていますが、 IoTの現場に固定して設置するゲートウェイは接続するネットワークがコントロールできるため、デバイス側もネットワークに接続するための手段がとりやすいと思います。
病院や工場、オフィスなどで利用する場合、既存の無線LANシステムに影響がないか考えておきたいところです。
LoRaプライベート
LoRaWANと区別する意味合いでLoRaプライベートと呼ぶことがあります。どちらもLoRaを下回りとしてその上位層の通信です。LoRaWANがLoRaWANアライアンスが決めた通信規格であるのに対して、LoRaプライベートは各社が独自に定めた通信プロトコルを利用しています。
LoRaプライベートの方が自由度が高く、互換性を考慮しなくて良い分、構築しやすく簡単に試すことができます。
長距離電波が飛ぶ通信なので、盗み見やなりすましなどのセキュリティを考慮しておく必要があります。
まとめ
IoTシステムの構成と選択肢になる無線通信について説明してきました。ここに挙げた通信方式以外にも選択肢がありますし、考慮するポイントも沢山あります。
IoTは広く深い知識・技術が必要となってきます。 無線について迷った場合は自社だけでなんとかしようと無理をせず、ムセンコネクトに一度是非ご相談してください。