『安全安心』のその先に挑むスマートロック開発、美和ロック株式会社様の受託開発事例
こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。
今回はムセンコネクトに受託開発をご依頼いただいた美和ロック株式会社様の導入事例インタビューをお届けしたいと思います。
今回お話を伺ったのは、Bluetooth通信機能を搭載したスマートロックシステム『PiACK Ⅲ smart』と『DTRS Ⅲ smart』の開発をご担当されている美和ロック株式会社 部長の岩田 圭司氏、課長代理の森重 寿弘氏、大竹 弘晃氏、田中 俊一氏、以上の皆さまです。
ムセンコネクトへスマートロックのファームウェア開発をご依頼いただくまでの経緯や、本開発システムに懸ける想いをお話していただきました。
*写真左二番目から美和ロック株式会社 課長代理森重氏、部長岩田氏、田中氏、大竹氏
美和ロック株式会社とは?
美和ロック株式会社は、1945年に設立し、錠前のリーディングカンパニーとして、最先端のIoT技術であるバイオメトリクスをいち早く取り入れ、次世代を見据えたセキュリティシステムをご提案しています。スマートロックの開発にも力を入れており、社会に安全・安心をお届けできる商品やサービスをご提供しています。
スマートロックシステム『PiACKⅢsmart』と『DTRSⅢsmart』とは?
『PiACK Ⅲ smart』は暗証番号やICカードを使った認証方式に加え、スマートフォンとのBluetooth通信による認証方式でも扉を施解錠できるスマートロックシステムです。
コロナ禍以前から要望があった「錠前を使わずに、スマートフォンや暗証番号だけで施解錠を行いたい」というニーズに応え、賃貸物件の錠前管理を効率化する機能を備えており、主に賃貸、既存物件、新築、オプション販売向けの商品として販売されています。
もう一つの『DTRS Ⅲ smart』はスマートフォンを使った認証方式に加え、専用キーを携帯した状態でボタンを押すだけで施解錠ができるハンズフリー認証を搭載しており、主に分譲マンション向けのニーズに応えた利便性の高い商品です。
『安全安心』だけでなく、錠前で『サービス』を届ける
まず始めにスマートロックシステムの企画統括を務める岩田氏からお話を伺いました。
-- 今回『PiACK Ⅲ smart』と『DTRS Ⅲ smart』を企画する際のポイントについて教えてください。
岩田氏:
以前のモデルにもBluetoothなどの無線機能を搭載し、遠隔操作ができる機能は備わっていたものの、今回のモデルでは『よりサービスが拡充できるような商品』を目指しました。具体的には、スマートフォンを介したオンラインコントロール機能に加え、これからのスマートホーム時代に即した他社デバイスとの連携やサービス自体の拡充も視野に入れ、拡張性の高い商品を狙って立ち上げています。
例えば、これから訪れる超高齢化社会を見据え、スマートフォンアプリで来訪者への一時的な施解錠操作を可能とする「来訪者対応機能」をリリースしました。この機能によって、単身で住まわれていらっしゃる高齢者を家事代行業者やデイサービスのヘルパーなどが来訪した際、鍵を渡さずに玄関を施解錠できるようになりました。セキュリティを下げずに利便性の向上を実現した一例です。
-- スマートロックを利用したことがない方々に対して、スマートロックの良さ、利便性を伝える難しさがあると思うのですが、美和ロック様ではどうやってそれを実現しているのか教えて下さい。
岩田氏:
SNS等を通じた消費者の方々への直接的なマーケティング活動はもちろんのこと、我々が強固なリレーションシップを築いている関係各社の皆さんとも協力してさまざまなマーケティング活動に取り組んでいます。例えば新築着工物件については、ドアメーカー様やディベロッパー様と一緒に電子錠化(スマートロック化)を推進してきており、市場にも着実に認知・浸透してきました。また、新築のみならず既設の建物に対しても、全国に700店舗以上ある弊社の錠前を扱うサービス代行店(通称、SD店)がマンションの管理会社やお客様へ継続してアプローチを行うことで、「スマートロックシステムは非常に便利で、使いやすい」などの口コミが発生し、波及していくことを狙っています。
--ここまでお聞きしている限りだと、戦略が強固で死角もなく、課題が全く見当たらない気がしたのですが(笑)
岩田氏:
課題はありますよ。
今までの美和ロックは『安全安心』をお届けするため、「玄関をどう守るか?」というセキュリティ対策に重きを置いてきましたが、世の中的には『安全安心』がコモディティ化してしまっているため、それだけでは差別化が難しくなっています。そこで今後は、セキュリティを守りつつ、さらにこれまでにないサービスという付加価値をそれぞれの市場毎にお届けして、収益につなげていけるかが課題であり、まさに取り組んでいる最中です。
つい先日も、物流危機が予想される2024年問題※への解決策として、再配達を削減することができる『ココ配』という新しい戸別宅配システムを開始しました。今後も、セキュリティと利便性の両立を目指した新しいシステムを世の中に提供していきたいと考えています。
※トラックドライバーの時間外労働の上限規制が2024年度から適用されるため、2019年度比で14%以上の輸送能力不足が顕在化するという社会問題
ムセンコネクトへ依頼の決め手は『ノウハウ』と『提案力』
次にムセンコネクトとの出会いについて森重氏からお話を伺いました。
-- ムセンコネクトに依頼する前のご状況やその経緯について教えてください。
森重氏:
遡ると、前々機種の『PiACK Ⅱ』を販売した後の話になります。
当時、Bluetoothの障害があり、当時お付き合いしていた外部の開発会社に解析をお願いしていたのですが、なかなか原因が特定できなくて困っていました。その際、社内のツテでムセンコネクトさんがBluetoothの製品開発に詳しいという噂を聞きつけ、駆け込むように紹介してもらいました。その後すぐに障害解析を手伝っていただき、すぐに解決に向かいました。
-- 実際に依頼をしようと思った決め手を教えてください。また、他の会社にムセンコネクトをお薦めするならどんな方々におすすめしますか?
森重氏:
まず決め手ですが、弊社が利用していたノルディック・セミコンダクターのICに対してソフト面・ハード面両方のノウハウを持っていた点です。
前機種である『PiACK Ⅱ smart』を開発した際も色々な機能を増やさなければいけないといった課題がありましたが、安心して開発を委託することができました。
その後お付き合いをしてから分かったことですが、色々と提案してくれるのは嬉しいですね。例えば、こちら側の「こういった仕様でやりたいです」ということに対して、懸念事項も含めてやりたいことを実現できる解決策を提示して実現してくれることが驚きであり、今では非常に助かっています。
それと正直な所、ムセンコネクトのエンジニアを取られたくないので、他社には紹介したくないですね(笑)
ただ、やはりBluetoothに関する部分は安心してお任せできるので、一度ムセンコネクトさんにご相談してみるとよいと思います。
利便性を向上させつつ、「社内の人間でもセキュリティ突破できない」と言い切れる堅牢性
次に、実際に開発に携わられた大竹氏、田中氏からお話を伺いました。
-- 今回の開発でのポイントを教えて下さい。
大竹氏:
新機種の製品化に際して、前機種から最も改善しなければいけなかった点は『BLEの接続部分』であり、具体的には大きく二つの課題がありました。
一点目は従来のものではBLE接続に時間が掛かってしまい、施解錠に時間を要してしまっていたので、『BLE接続時間を短縮して、施解錠動作を速くする』というのが一つ。
もう一つはファームウェアアップデートに要する時間を高速化したいという点について。これまで全てのシステムをアップデートした場合には約10-20時間も要してしまっていました。これはシステム全体の機器にBLE通信でファームウェアデータを転送するのに時間がかかりすぎていたことも一因であったため、『ファームウェアのデータ転送を5分以内に完了することを目標』にしました。
ーー実際、開発に取り組んでみて苦労された点を教えて下さい。
大竹氏:
これまではBLEのLE Secure Connections(以下、LESCと略す)のペアリング方式を使ってBLE接続していました。LESCのペアリング方式だとBLE転送されるデータ自体が暗号化されているので転送データについてはセキュリティが担保されていましたが、今回はBLE接続時間を短縮したかったため、ペアリングを使わずにBLE接続する方式にトライしました。社内からは「それを採用して、どうやってセキュリティを担保するのか?」という声もあがり、試行錯誤に苦労しましたが、独自の暗号化をかけることで、セキュリティ性を担保しつつ、BLE接続にかかる時間を短縮して施解錠動作を速くすることに成功しました。
結果的に、今回の製品は我々社内の人間がセキュリティ突破しようとしても突破できないくらいの自信があります(笑)
また、もう一つの課題だったファームウェアアップデートの高速化については、ファームウェアのデータを専用に転送するサービスを用意することで、結果的に従来から比べると1/100以下まで短縮でき、高速化を実現しました。この検討の最中にも、「どの位のサイズでファイル転送すれば一番効率的なのか?」であったり、転送する際も「Connection Intervalをどの位にすると効率が良いのか?」など、様々なパラメータを一つずつ調整していく部分に苦労しましたが、試作段階からムセンコネクトさんに携わっていただき、狙った性能が実現できたことは非常に嬉しく思っています。
今後、ムセンコネクトに期待していることは?
大竹氏:
我々の社風や開発スタンスを理解した上で、我々に合った中身の提案をしてくれるというのが非常に助かります。ですので、今後も新しいものに挑む上で、同様のスタンスでご提案いただけると期待しています。
田中氏:
弊社のスマートロックは『利用者の生命や財産を守るための機器』という使命を持つなかで、引き続き新しいサービスを実現していくために、今後はBluetooth以外の無線規格への対応やご協力も期待しています。
錠前のリーディングカンパニーとして
-- 最後に貴社の事業、製品について今後の展望を教えてください。
岩田氏:
「新しいサービスの価値を、弊社が錠前を使ってどこまで提供できるのか?」を追い求めていきたいです。繰り返しにはなりますが、これまで我々は安全安心を売り物にしてきましたが、安全安心に加え、サービスに付加価値を持たせていくことが、最終的に事業を収益化できる道筋だと考えています。
大竹氏:
弊社の企業理念は『高品質な製品をお客様にお届けすることで、安全安心を提供し、快適な暮らしが送れるように、立派に社会貢献を果たす』です。IoTをはじめ全ての分野の技術革新が進む中、無線技術も高度化してきているからこそ、品質には今後もこだわりたいと思っています。高品質の製品やサービスを今後も継続して提供していくことが、錠前のリーディングカンパニーとしての使命だと思っています。
Bluetooth化のポイント
- 無線通信による遠隔操作はもちろん、Bluetooth通信を他社デバイスとの連携やサービスの拡充にも活用。
- デバイスの動作速度を向上させるため、Bluetooth通信の接続時間短縮にトライ。あえてペアリング機能を使わず、独自暗号化の仕組みを導入することでセキュリティ性を担保しつつ、動作速度の改善に成功。
- 転送するデータサイズや各種Bluetoothパラメータを調整し、ファームウェアアップデート機能の高速化を実現。従来比1/100に短縮。
インタビューを終えて
「安全安心」、「高品質」、「サービス」。
全て、インタビューの際に皆さんがしきりに発していた言葉です。
インタビューの最後に、これらが美和ロック様の企業理念に全て詰まっていたことを知り、まさに企業理念の具現化されたものが製品やサービスになっているのだなと腹落ちしました。
リーディングカンパニーとしての地位に甘んじず、自社の課題に対して様々な取り組みをされている美和ロック様の製品づくりに携わることができ、非常に光栄です。
これからもBluetoothを中心としたご支援により、お客様のありたい姿への実現に向かってサポートしてまいります。