【#Bluetooth東京セミナー2021 まとめ】Bluetooth 5.1、Bluetooth 5.2の実用フェーズがやってきた!
こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら)
2021年11月18日に開催された「Bluetooth東京セミナー2021 」の速報をお届けします。Bluetooth®に関する最新の情報や各社の取り組みが皆さまの無線化開発のヒントになれば幸いです。
Bluetooth、未曽有の危機を乗り越えてレジリエンスを発揮
セミナーのスタートはBluetooth SIG チーフ・マーケティング・オフィサーKen Kolderup氏による講演。講演のテーマはBluetooth技術における近年のトレンドと今後の成長分野について。
Bluetoothのメンバーシップは順調に成長し、メンバー企業数は今や37,000社を超え、APAC(アジア太平洋)地域だけでも14,000社も参加する強いコミュニティに成長。SIGのワーキンググループにも3,600社が参加しており、今年(2021年10月15日時点)だけで18個の新仕様が採用。
今後、まもなくリリースされる主な新機能の一つとして挙げられるのが『LE Audio』。低消費電力、高品質オーディオ、マルチ・ストリーム、ブロードキャストの全てに対応するLE Audioは、今後20年間にわたりワイヤレスオーディオ分野のイノベーションを推進する技術になると期待。
その他の主な新機能として期待されるのが『Bluetooth距離測定』。位置情報サービスの分野では、先頃リリースしたBluetooth方向探知と、近くリリース予定の『Bluetooth距離測定』が主な成長を牽引していくと予想。
さらに約4年前に1M PHY⇒2M PHYに向上したデータレートについても、より高いデータスループットへの向上が予定されており、既存サービスも向上されていくとのこと。
最後の総括では、前例のない困難な時代にもかかわらず、Bluetoothのコミュニティ、技術、出荷台数、市場、いずれも堅調を維持しており、次の将来に向けて大きな期待を強調し、SIGの講演は終了。
Bluetooth LE Audio – まもなく登場する、進化したBluetooth Audio
続いては、昨年に引き続きソニー株式会社のワイヤレステクニカルマネージャーを務める関 正彦氏が登壇。昨年v5.2で採用された新しいBluetoothオーディオ伝送方式『LE Audio』の全ての仕様策定がまもなく完了予定とのこと。昨年同様LE Audioの概要、技術説明を中心に、なぜLE Audioが必要なのか、今後の進化などについて解説。
拡大を続けるBluetoothオーディオ市場。有線ヘッドホンから、Bluetoothヘッドホン、さらに左右独立型ヘッドホンへと進化を続け、市場は拡大中。
2016年は8億台だったBluetoothオーディオ製品の出荷数が、2021年は13億台、2025年は17億台へ増加の予測。
LE Audioの特徴やユースケースにも言及。LE Audioの特徴は『低遅延』『新コーデックLC3』『マルチストリーム』『ブロードキャスト』の大きく4点。その特徴を活かし、例えば空港内の案内放送などにもLE Audio技術が使われると期待。
LE Audioの技術説明
LE Audioのスタック構成は『Core Specification』『Generic Audio Framework』『Profile』の大きく三つから成り立つ。特に、LE AudioではBluetooth Core Specification 5.2以降で採用された二つの機能が必要。
機能名 | 概要 |
LE Isochronous Channels | Bluetooth LEでのオーディオ伝送のための通信方式 |
Enhanced Attribute Protocol(EATT) | 複数のATT PDUを同時に通信できるよう、ATTを拡張 |
LE Audio実現のためのストリーミング方式である、LE Isochronous Channelsは2つの通信方式(CISとBIS)を持ち、どちらも低遅延を実現するための仕組みとして機能。
Generiv Audio FrameworkはLE Audioの基本的な制御、伝送に関わる仕様を定義している部分で、機能ごとにProfile/Service仕様を分けて定義。
Profileでは、ユースケース毎に、CAPや各制御プロファイルのどの機能をサポートすべきか、またはサポートすべきコーデックの設定値などを定義。
最後は、まもなくLE Audioに必要な全仕様が正式に決定し、正式版がリリース予定と発表。質疑応答では「規格側が定まり次第、LE Audioに対応したソニー製品をできるだけ早いタイミングで販売開始したい」とソニーのLE Audioに対する抱負を述べ、終了。
ヘルスケア分野におけるBluetoothの活用事例「Bluetoothを用いた院内感染対策のご紹介」
3番目は、株式会社ケアコムの担当部長を務める坂本 祐二氏が登壇。COVID-19流行以前より院内感染対策に取り組まれていた「手指衛生」のリアルタイムモニタリングについて紹介。
病院感染症による経済的インパクトとして、例えば1000床クラスの病院での経済的損失は推定約11億円にものぼり、仮に病院感染症が発生した場合に生じた費用は病院の負担に。
院内感染予防策の中でも『手指衛生』は院内感染を減らすたった一つの効果的な方法として知られており、その効果はCOVID-19でも同様。手指衛生遵守が院内感染を減らすが、現状の実施率は低い場合が多く、その遵守向上にはモニタリングとフィードバックが重要。
IoTを用いた手指衛生モニタリングシステム『3HS-AI』
そこでケアコム社では『現場のスタッフに負担をかけないこと』『手指衛生のタイミングも継続的に可視化できること』『モニタリングからフィードバックの自動化ができること』を目標とした3HS-AIを開発し、実際の病院でモニタリングを開始。
システム構成
モニタリング例(名古屋大学医学部付属病院)
下記画像は実際に携帯用ポンプを所持した看護師の導線と手指衛生をモニタリングした様子。ポンプ用センサー36個、IoTゲートウェイ26箇所設置。
ダッシュボード上ではベッド進入回数と手指衛生実施回数が自動でグラフ化されるなど豊富なフィードバックを準備。
モニタリング例(福井大学医学部付属病院)
モニタリングを実施し、さらにフィードバック有無で手指衛生実施率を比較。モニタリング結果をリアルタイムで表示し、フィードバックを加えることで全職種の手指衛生実施率が向上。
今後の展望
現在は、診療工学技士の保守点検関連業務の課題解決のため、電力消費量をセンシングし、使用状況をリアルタイムに把握する新たなシステムを構築中。
実用フェーズに入ったBluetooth Direction Finding – Pixie Dust Technologiesでの適用事例
4番目は、シリコン・ラボのIoTスペシャリスト水谷 章成氏と、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社の副本部長を務める髙橋 新氏が登壇。Bluetooth Direction Findingを活用したLocation Serviceが実用段階に入り、実際のソリューションについて紹介。
何故、Bluetoothのインドアロケーションサービスは有効か?
冒頭は水谷氏からのプレゼン。Bluetoothのインドアロケーションサービスが有効な理由は大きく5つあるという。
- Bluetoothタグはコイン電池で5年から10年のライフが実現されている
- Bluetoothタグの材料(BOM)は、大量生産時には$1を切るレベル
- Bluetooth Direction Findingは1m以下の精度を、リーズナブルな設備投資と開発工数で実現可
- Bluetoothでは、測位と双方向通信が同時に可能
- Bluetooth meshを使用すれば、商業用照明の無線化とロケーションサービスを同時に実現可
ピクシーダストテクノロジー社の『hackke』
続いて、髙橋氏から高精度位置情報測位システム『hackke』の紹介。
hackkeはAoA技術を使用した、高精度かつ導入が容易な測位システムであり、従来のRSSIベースの測位システムと比較して、精度が劇的に向上し、サブメートルの誤差で測位が可能とのこと。
デバイスはロケータとタグの二種類とシンプル。
用途や事例も、アセットマネジメント、工数集計、フリーアドレス、動線情報活用など様々。Bluetooth 5.1のDirection Findingを使った屋内位置測位サービスとしては国内初の商用サービスになる。
ムセンコネクト水野の感想)
シリコン・ラボのテクノロジーも素晴らしく、期待値が高いと感じた。気になる導入コストについてはお問い合わせが必要とのこと、興味ある方は是非ピクシーダストテクノロジーズへ。
Bluetoothが今後フォーカスされる領域と、社会システムの中での新規事業創造に必要な事項を紹介
もはやお馴染み、株式会社東芝の技術管理担当兼Bluetooth SIG Board of Director足立 克己成氏が登壇。多角的視点から、今後フォーカスされる領域と、社会システムの中での新規事業創造に必要な事項について紹介。
近年の改良点を使用したユーセージが開花中
既にあるソリューションから、近年の改良点について説明。新しいユースケースも生まれ、SIG CMO Ken氏による冒頭のプレゼンでもあった『今後の技術フォーカス』についても足立氏から繰り返し説明があり、SIG側として期待の高さが伺えた。
社会システムへの適用に必要な事項
EOSL(End of Service Lifeの略、保守終了製品)の長い社会システム分野でもBluetoothを成功に導くためには昔のものを使い続けられること、影響を与えないことが重要であり、新仕様でユーザにとって魅力的であり、買い替えることに積極的になれる双方からのアプローチが必要とのこと。
Bluetooth認証プログラムについて
6番目は、Bluetooth SIGのAPACディベロップメント&リレーションズマネージャー木和田氏が登壇。認証プログラムの概要とそれに関連するブランディング、執行プログラム(Enforcement Program)の重要点について説明。
Bluetooth認証プログラム
製品を販売するまでのステップとして大きく『メンバーシップ』『認証』『ブランド標示』の3つが存在。
特に、Bluetooth認証プログラムには主に2つの観点が必要。『①仕様に対する準拠と相互運用性の証明』と『②製品登録』の二点。
①証明の仕方
表のように、テストを要する場合と不要な場合に分かれる。
②製品登録
最初の製品登録では事務手続き費用(Declaration IDの購入費用)が必要であり、BQTF(Bluetooth認証試験施設)やBQC(Bluetooth認証コンサルタント)のサポートを受けることで適切な製品登録が可能。
ブランド標示
ブランド標示に関する誤りで多いのが『①ブランド標示がない』と『②誤ったブランド標示』の2点。
①ブランド標示がない
販売者によるブランドの標示がなく、Bluetoothの商標のみあるといったパターン(どこの会社の製品であるのかわかるようにすること)。
②誤ったブランド標示
Bluetooth商標が正しく標示されていない。Bluetoothブランドガイドを読み、正しいブランド標示が必要。
最後に、昨年発生した税関からのお問い合わせ件数を公開。
誤ったブランド標示により、昨年だけで税関から400件の問い合わせがあり、うちSIGとして50件の認可証を発行。しかしながら、残り350件については出荷保留などの足止めが発生。ブランド標示の重要性について説明があり、終了。
大学キャンパス向け接触確認・混雑度確認サービスMOCHAにおけるBluetoothの活用事例
最後は、東京大学の教授を務める川原氏が登壇。東京大学で行ったCOVID-19の感染拡大対策として、キャンパス内の混雑状況の確認や教室予約、さらに接触確認も行えるサービスの実現方法とBluetoothの活用事例について紹介。
現状(接触追跡アプリ)の課題
- 健康vsプライバシーへの懸念
- 厳しい管理を徹底している国もあれば、プライバシーを守る権利が健康に勝る国もある
- メリット
- 普段から明確なメリットを感じにくい
- 人々からの信頼
- 分散型、セキュリティにいかに配慮してても信用されないことがある
- 精度と開発の難しさ
- デバッグが難しい、正確な距離判定が性質上難しい
他国の状況
欧米など他国でも利用と陽性登録が伸び悩む。
大学キャンパス向け接触確認・混雑度確認サービス『MOCHA』
学内の教室等に設置された2,000個のBluetoothビーコンから発せられる信号を、MOCHAを有効化したスマートフォンが受信することで、キャンパス内での滞在情報を記録。
記録された情報は、本人以外は確認できない形でサーバーにアップロードされ、利用者が参加しているチャンネルの設定に基づいて、他の利用者に匿名、ニックネームなどで公開。
2020年6月にスタートし、有志のメンバーでアプリを開発、2020年11月には運用を開始。2021年10月17日現在、MOCHAの利用状況はユーザー数約6,000名。
最後に課題が示され、Bluetoothビーコンの検出率の向上やインストールを躊躇するユーザー心理などが挙げられた。一方、新たな取り組みも始まっており、環境構築時に電波強度に対してシミュレーションを行い、効率的にビーコンを設置するなど、大学らしい学術的なアプローチも試みているとのこと。
Bluetooth東京セミナー2021を終えて
今年のセミナーは『事例』『実例』にこだわったテーマが多く、Bluetoothの新しいテクノロジーがまさに実用化段階に入ったと言わしめるような内容でした。Bluetoothには近年沢山の機能が充実し、今後はその機能それぞれを活用したプロダクト・サービスづくりがより多岐に渡り、かつ、成長するイメージを持つことができたセミナーとなりました。来年もまた楽しみですね。