【完全版】サルでもわかるBluetooth認証の基礎まとめ(2024年7月アップデート対応)
こんにちは、ムセンコネクトCMOの清水です。(プロフィール紹介はこちら)
これまでムセンコネクトの『無線化講座』ではいろいろな角度からBluetooth認証について解説をしてきました。ありがたいことにそれらの記事をまとめ、再編集した書籍『Bluetooth無線化講座』がたいへん好評をいただいていることもあり、これを機にブログ記事としてもBluetooth認証に関する基礎知識をまとめ直すことにしました。
題して、「【完全版】サルでもわかるBluetooth認証の基礎まとめ」です。
Bluetooth認証はなぜ必要なのか。
認証プロセスはどういう仕組みなのか。
メーカーエンジニアにはどのようなアクションが求められ、注意すべき点は何か。
これらを順序立てて解説し、過不足なく網羅できるようになっています。また、Bluetooth認証のルールは2024年7月1日にアップデート(※)が実施されましたが、本記事の解説はアップデート後の最新情報に対応させています。つまり、この1ページさえ見れば、現時点でメーカーエンジニアに求められるBluetooth認証の基礎知識はすべて抑えられる内容になっています。
※以後、本文中の「アップデート」は2024年7月1日に実施されたアップデートを指します。
2024年9月2日に本記事を公開した後、再度認証プロセスに関する用語変更が実施されました。
Bluetooth SIGに確認を行い、2024年10月30日時点での最新情報に更新しています。
なお、本記事と同じテーマの動画も作成しています。動画とテキスト記事の違いから一部内容や表現を変更していますので、両方ご覧いただくとより理解が深まると思います。あわせて参考にしてください。
Bluetooth認証(Bluetooth Qualification)はなぜ必要か?
まずはじめに、Bluetooth認証の必要性について解説します。
Bluetooth認証(Bluetooth Qualification)というのは民間団体であるBluetooth SIGが「Bluetoothの技術仕様や、その利用方法について定めている独自ルール」です。各国の法律である「電波法」の場合は国ごとに取得が必要となりますが、Bluetooth認証は法律ではないため、一度取得してしまえば全世界で有効となります。
Bluetooth認証を無視すると?
もしBluetooth認証を取得しなかった場合、Bluetooth認証は法律ではありませんので法的な処罰の対象にはなりませ ん。ただし、不当にBluetooth SIGの権利を侵害したということで、民事的なリスクを負うことになります。Bluetooth認証を取得せずにBluetooth技術を利用することは、権利者であるBluetooth SIGに許可なく無断でその技術や権利を利用してしまったことになり、販売差し止めや賠償責任のリスクが発生します。
【要注意】Bluetooth SIGは本当に督促する
ここでみなさんに知っていただきたい重要なことがあります。それは
「Bluetooth SIGは認証取得していないメーカーや製品に対して、認証手続きを完了するよう本当に督促する」
という事実です。
実際ムセンコネクトでも督促を受けてしまったメーカーから相談を受けることがあります。あるメーカーはBluetooth SIGから送られたメールでの警告に気づかず1か月近く放置してしまったため、罰金が課される強制執行が目前まで迫っており、時間的猶予がほとんどない状況でした。そのケースではすぐにムセンコネクトがサポートに加わり、是正措置プラン(CAP)をBluetooth SIGに提出して合意を取り、適切な認証プロセスを踏むことで解決に至りました。
しかし、過去には督促を無視し続けてペナルティを受ける事態にまで発展してしまった実例も目の当たりにしています。このようにBluetooth認証を無視することは大きな代償を覚悟しなくてはなりません。
【よくある質問】ロゴを使用しなくても認証が必要?
「Bluetoothロゴは使用できなくても良いので、Bluetooth認証は取らなくても良いですか?」
こういった質問をよく受けます。Bluetooth SIGは
「Bluetoothロゴの使用有無にかかわらず、Bluetooth技術を使用した時点でBluetooth認証が必要」
「Bluetooth認証を取得した上で、ロゴを使用するしないはメーカーの自由」
と案内しています。というわけで、ロゴを使用しない場合でもBluetooth認証は必要です。ご注意ください。
他社同士のデバイスであっても難なく接続できる「相互運用性の高さ」が Bluetoothの特長のひとつですが、昔から相互接続性が高かったわけではありませんでした。Bluetoothの黎明期は「相性問題」があり、古くからBluetoothを知るユーザーの中には「Bluetoothは他社デバイスとは接続できないこともある」と認識する人も少なくありませんでした。しかし、いま現在はそのような相性問題も少なくなり、他社デバイス同士でも接続できないという話はほとんど耳にしなくなりました。それこそがBluetooth SIGがBluetooth認証プロセスに力を入れてきた賜物であり、認証プロセスの重要性を裏付けています。
Bluetooth認証プロセス(Bluetooth Qualification Process)の流れ
自社でBluetooth機器を開発し、販売したいメーカーが行うべき手続きは、以下の2つです。
- Bluetooth SIGにメンバー登録申請
- Bluetooth認証プロセス(Bluetooth Qualification Process)の実施
これが基本となる手続きの流れです。
Bluetooth SIGは長年、認証プロセスにおいて「製品登録(Product Listing)」という言葉を用いていました。ですが、アップデートされた認証プロセスの中では「製品登録」という言葉が使われなくなっていました。
ただし、これは「製品登録」という言葉が使われなくなっただけであり、「製品を登録する必要がなくなった」わけではありません。ご注意ください。
Bluetooth SIGのメンバーに登録
自社製品にBluetooth技術を利用するためには、Bluetooth SIGに加入する必要があります。これをメンバー登録といいます。
Bluetooth SIGには「プロモーター(Promoter)」「アソシエート(Associate)」 「アダプター(Adopter)」という3段階のメンバーシップがあります。基本的にはアダプターメンバーになればOKです。
アダプターメンバーの場合、初期登録料、年会費ともに無料です。Bluetooth SIGに加入しているメンバーはBluetooth SIGのウェブサイトで検索が可能です。
認証プロセスの実施
Bluetooth機能が搭載された最終製品を自社ブランドの商品として販売するためには認証プロセスを実施する必要があります。
認証プロセスでは製品名などの製品情報に加え、その機器がBluetooth規格の要件を満たしていることを証明するために技術仕様を示す必要があります。
認証プロセスはBluetooth SIGのオンラインツール「Qualification Workspace」を使用して行います。ステップは5つです。
登録する自社製品の詳細情報などを入力します。
Bluetooth SIGではBluetooth技術自体のことを「設計(Design)」と定義しています。このステップ2では使用した「デザインの特定」を行います。具体的には「DN」または「QDID」または「DID」を指定します。
アップデート以前、Bluetooth SIGはBluetooth認証プロセスに適合している設計、製品の識別番号としてQDIDとDIDという言葉を使用していました。
そして今回のアップデートでDN(Design Number)という言葉が新たに加わりました。
- QDID(Qualified Design ID)
-
「認証プロセスに合格した設計」に対する識別番号
- DID(Declaration ID)
-
「製品登録時に必要」となる識別番号
- DN(Design Number)
-
「Bluetooth機器がBluetooth認証プロセスに適合した証」となる識別番号
Product Qualification Feeを支払い、Receipt Numberを取得します。
Product Qualification feeはメンバーシップによって異なり、アダプターメンバーの場合で$11,040 USDです(2024年7月時点)。支払いが完了すると、Bluetooth SIGからReceipt Numberが発行されます。
登記簿謄本やメールドメイン証明書、発行されたReceipt Numberなどの「必要書類」をアップロードします。
Bluetooth SIGにて提出書類の審査が行われます。申請内容に不備などがなければ1営業日以内に承認され(※)、認証プロセスが完了します。
※ほとんどの場合は1営業日以内に完了しますが、より複雑な提出書類の検証を要する場合は5営業日以内の完了となるようです。
条件が揃えば認証テストを回避することができる
ここまでBluetooth認証プロセスの基本的な流れを解説してきましたが、認証プロセスの難易度は「デザインの特定」の仕方によって変わります。なぜなら認証テストの有無が変わってくるからです。
そこで認証プロセスにおける重要なポイントである「デザインの特定」についてもう少し詳しく解説します。
デザインの特定とは?
前述したように、Bluetooth SIGではBluetooth技術のことを「設計(Design)」と定義しています。つまり、「デザインの特定」とは「Bluetooth製品に使用したBluetooth制御部分の設計を示すこと」を指します。
デザインの特定方法は「Option 1」「Option 2a」「Option 2b」の3パターンから選びます。
- Option 1
-
1つの既存認証済みデザイン(DN / QDID / DID)を参照するパターンです。この場合、原則認証テストは不要です。
- Option 2a
-
複数の既存認証済みデザイン(DN / QDID / DID)を組み合わせて新たなデザインを生成するパターンです。この場合も原則認証テストは不要です。
- Option 2b
-
全く新しいデザインを生成するパターンです。この場合は認証機関(BQTF)での無線試験やドキュメント提出が必要です。認証試験に合格するとDesign Number(DN)が付与されます。
認証テストはBluetooth SIGから許認可を得ている認証機関(Bluetooth Qualification Test Facility、通称BQTF)でなければ受けることができません。2024年7月現在、日本国内で認定を受けているBQTFは4社のみです。
- アリオン株式会社
- テュフ ラインランドジャパン株式会社
- ビューローベリタスジャパン株式会社
- 株式会社UL Japan(五十音順)
認証テストの有無に影響するBluetoothモジュールの「Core Configuration」
「デザインの特定」についてご理解いただいたところで、「認証テストを回避するためにはOption 1を指定すればよい」「認証済みのBluetoothモジュールを採用すればOption 1を選択できる」と考えるエンジニアの方も多いと思います。ですが、仮に「認証済みのBluetoothモジュール」を組み込んだからといって、必ず認証テストを回避できるわけではありません。認証テストの有無は製品に組み込んだBluetoothモジュールのCore Configurationによって変わります。
認証されたDesign Number(Bluetoothモジュール)には、各DesignごとにCore Configurationが設定されています。Core Configurationは5種類あり、Bluetooth設計を完全にサポートしたCore-Complete configurationや、一部のみをサポートしているCore-Host configurationなどがあります。
Product Typeの名称変更 | |
---|---|
2024年7月以降の名称 | 旧名称 |
Core-Complete configuration | End Product |
Core-Controller configuration | Controller Subsystem |
Core-Host configuration | Host Subsystem |
X2Core Layer(s) | Profile Subsystem |
Core Layer(s) or X2Core Layer(s) | Component |
Core-Complete configuration(旧End Product)
「Core-Complete configuration」というのは、Bluetooth技術に必要な要件をすべて満たしているデザインです。よって採用するBluetoothモジュール(参照するデザイン)のCore Configurationが「Core-Complete configuration」であれば、「その製品はBluetoothに必要な要件をすべて満たしている」ということになり、Option 1を選択可能です。つまり認証テストを省略できるということです。
それ以外のCore Configuration
それ以外のCore ConfigurationはBluetooth技術の一部、または構成する部品となるデザインです。よって「Core-Complete configuration」としての要件を満たすように複数のデザインを組み合わせたり(Option 2a)、要件を満たしているのかを確認するための認証テストが必要になります(Option 2b)。
Bluetoothバージョンの非推奨・廃止
さらに、認証プロセスの試験有無に関わるもうひとつの重要な要素「Bluetoothバージョンの非推奨・廃止」ついて解説します。
Bluetoothは1999年にバージョン1.0が登場して以降、常にバージョンアップを繰り返し、2024年時点ではバージョン5.4まで策定されています。
このBluetoothバージョンには「非推奨」「廃止」というルールがあり、各バージョンには「非推奨日」と「廃止日」が設定されています。
設定された期日を過ぎると該当バージョンは「非推奨」「廃止」となり、製品登録に以下のような制限が加わります。
製品への制約 | 非推奨 | 廃止 |
---|---|---|
認証テストをともなう新規製品登録 | 不可 | 不可 |
認証テスト不要な新規製品登録 | 可 | 不可 |
登録済み製品への追加登録 | 可 | 不可 |
登録済み製品の販売 | 可 | 可 |
Bluetooth機器に「廃止」の「設計仕様(Bluetoothモジュール自体やプロファ イルなど)」が含まれている場合、認証テストの有無にかかわらず新規製品登録を行うことはできません。また、登録済み製品への追加登録もできません。
Bluetooth機器に「非推奨」の「設計仕様」が含まれている場合、「認証テストをともなう新規製品登録」はできませんが、「認証テストを省ける新規製品登録(後述するユースケース①のパターン)」であれば登録可能です。また、登録済み製品への追加登録も可能です(ユースケース②のパターン)。
つまり、Bluetoothバージョンが古すぎるBluetoothモジュールの場合には製品登録自体が行えない場合があるのでご注意ください。ムセンコネクトにいただくご相談の中には、時々このケースで認証取得ができないお客様もいらっしゃいます。
なお、Bluetooth機器に非推奨、廃止の設計仕様が含まれていたとしても、登録済みの製品を販売し続けることは問題ありません。
内蔵するBluetoothモジュールの「Core Configuration」と「Bluetoothバージョン」が重要
以上をまとめると、
- 内蔵するBluetoothモジュールのCore Configurationが「Core-Complete configuration」または「End Product」
(ただしBluetoothモジュールに変更を加えないこと) - BluetoothモジュールのBluetoothバージョンが「廃止」ではない
- 認証プロセスの「デザインの特定」においてOption 1を選択し、内蔵するBluetoothモジュールの「DN / QDID / DID」を指定
という3つの条件を満たすことで認証テストの省略が可能となります。
なお、認証テストは省略できますが、認証プロセスの実施、Product Qualification Fee(administrative fee)の支払い、SIGによる審査は必要となります。
また、一度「登録したデザイン」に対しては追加費用なしで別製品の追加登録が可能です。これは認証費用を節約する上でとても重要なルールであるため、次のパートでユースケースを解説します。
認証プロセスのユースケース
最後に、ムセンコネクトのBLEモジュールLINBLEシリーズを組み込んだ場合を例として、認証プロセスのユースケースをご紹介します。
ケース① 最終製品メーカーX社がBluetoothモジュールLINBLE-Z1を組み込んで、製品X-1を開発・販売する場合
LINBLE-Z1はCore Configurationが「Core-Complete configuration」であるため、認証テストを省略できます。Product Qualification Feeを支払ってReceipt Number「xxxxxx」を取得し、Design NumberはLINBLE-Z1の「138552」を参照して製品登録を行います。
- 登録者
-
X社
- 登録製品
-
X-1
- Design Number
-
138552(LINBLE-Z1のDesign Numberを参照)
- Receipt Number
-
xxxxxx(Product Qualification Feeを支払って取得)
ケース② 最終製品メーカーX社が同じくBluetoothモジュールLINBLE-Z1を組み込んで、製品X-2を開発・販売する場合
参照するDesign Numberが変わらないため、製品X-1登録時に取得したReceipt Number「xxxxxx」を利用して製品X-2を追加登録が可能です。
なお、参照するDesign Numberが同じであれば、追加登録する製品はX-1とはまったくジャンルの異なる製品Y-1でもOKです(X-1の派生製品じゃなくても良い)。
- 登録者
-
X社
- 登録製品
-
X-1、X-2(←X-1の製品登録にX-2を追加)
- Design Number
-
138552(LINBLE-Z1のDesign Numberを参照)
- Receipt Number
-
xxxxxx(X-1登録時に取得したReceipt Numberを利用可)
ケース③ 最終製品メーカーX社が製品登録済みX-1に内蔵するBluetoothモジュールをLINBLE-Z1からLINBLE-Z2に変更して販売する場合
X社とすればケース①で製品登録済みのX-1でも、組み込むBluetoothモジュール(参照するDesign Number)が変わった場合、Receipt Numberの再取得と製品の再登録が必要となります。
- 登録者
-
X社
- 登録製品
-
X-1
- Design Number
-
191546(LINBLE-Z2のDesign Numberを参照)
- Receipt Number
-
yyyyyy(再度Product Qualification Feeを支払ってReceipt Numberを再取得)
ケース④ メーカーX社の製品X-1を代理店Z社が再販する場合
Z社が「Z社ブランドの商品」として扱うのではなく「X社の製品X-1」として再販する場合(単なる転売)、Z社は製品登録が不要です。
ケース⑤ メーカーX社の製品X-1を、Z社が自社ブランドの製品Z-1として販売する場合
X社がZ社にOEM供給するパターン。市場から見れば製品Z-1はZ社の商品であるため、Z社がBluetooth SIGのメンバーとなって製品Z-1の製品登録を行う必要があります。
- 登録者
-
Z社
- 登録製品
-
Z-1
- Design Number
-
138552(X社のX-1に内蔵されているLINBLE-Z1のDesign Numberを参照)
- Receipt Number
-
zzzzzz(Z社がProduct Qualification Feeを支払ってReceipt Numberを取得)
Bluetooth認証についてわからないことはBQCに相談しよう
以上がBluetooth認証プロセスの概要です。
はじめてBluetooth認証を学ぶ方でもわかるようにかなり噛み砕いて解説したつもりですが、それでもわからないことがまだまだ出てくるかもしれません。そんなときはBluetooth認証のエキスパートであるムセンコネクトのBQCにご相談ください。
BQCは「Bluetooth認証コンサルタント(Bluetooth Qualification Consultants)」の略称で、Bluetooth SIGメンバーのBluetooth認証プロセスを支援する役割を担っています。BQCはBluetooth SIGから認定を受けた独立系コンサルタントであり、資格保有者は全世界でおよそ40名程度です(2023年時点)。
本記事では取り上げきれなかったムセンコネクトのノウハウはまだまだたくさんあります。ムセンコネクトではBluetooth認証に関するトラブルのご相談に対応することがありますが、その中には事前にBQCに相談することで回避できたであろうトラブル事例も少なくありません。
Bluetooth認証はケースバイケースの対応が求められますので、わからないこと、知りたいこと、相談したいことがございましたら遠慮なくムセンコネクトのBluetooth認証コンサルタントまでお問い合わせください。