【体験談】実際に経験しないとわからない海外無線認証取得時のトラブル回避策
こんにちは、ムセンコネクトCMO、兼 無線化.comカスタマーサポート担当の清水です。 (プロフィール紹介はこちら)
海外認証取得は一筋縄ではいきません
これまで私はBluetoothモジュールメーカー(エイディシーテクノロジー株式会社 / 無線化.com)のメンバーとして、Bluetoothモジュール単体、もしくはZEALシリーズを組み込んだ最終製品でのFCC、CEマーキング、KCといった海外認証取得業務に携わってきました。
ここで知っていただきたいのは、海外認証取得というのは「とにかく時間がかかる」ということです。
認証取得業務では数多くのトラブルを経験しました。海外認証取得は一筋縄ではいきません。ここでは実際に経験したトラブル事例をご紹介しますので、未然にトラブルを防ぐための参考情報としてお役立てください。また、実際にこういったことが起こり得るということを念頭に入れ、海外認証取得可否の検討材料にしてください。
事前確認時には言われていなかった資料を後から追加要求してくる
自社製品の海外認証取得を検討する場合、自分たち(申請者)がどんな書類を提出しなくてはならないのか、資料や試験サンプルをちゃんと用意できそうかどうか、事前にリサーチするエンジニアは少なくないと思います。
ウェブ検索したり、無線モジュールメーカーに問い合わせるのも有効ですが、一番確実なのは依頼予定の認証機関に確認することです。事前に「必要なもの」を確認しておき、「これなら全部用意できる。」ということで正式に依頼。あとは手続きが終わるのを待つだけ・・・・と思いきや、認証機関から 「追加で◯◯◯も出してください。」 「▲▲▲が必要です。」 「●●●が無いと無線試験ができません。」 などと言われ、「え、事前確認した時にはそんなもの言われてなかったんですけど・・・。」ということがよくあります。これはホントによくあります。
そうなるとそこから追加要求された資料やらサンプルやらを準備しなくてはならなくなるので、単純にその分タイムロスが生じます。
とは言え、時間がかかっても用意できるものならまだマシで、後述するような「え、これ用意するの厳しくない?」というものだった場合、認証取得自体が先行き不透明になります。
というわけで海外認証取得というのは認証書を手にするまでの間、ずっと「もしかしたら取得できないかもしれない」という不安に駆られることになります。
自社発行の資料ではダメで、部品メーカー発行の資料を要求される
追加要求された資料が自社で用意できるものでは無く、各部品メーカーに提供、発行をお願いしなくてはならない場合はさらに時間がかかってしまいます。この場合も時間がかかっても入手できるならまだマシで、資料によっては提供に難色を示されたり、提供を断られてしまう場合もあります。
A社:
「認証機関から資料◯◯◯を要求されたので提供をお願いできますでしょうか?」
当社:
(A社に対し)「要求された資料◯◯◯を発行しました。」
A社:
「認証機関に提出したところ、ADC(当社)発行の資料ではダメで、部品メーカー発行の証明書が必要とのことです。」
当社:
(部品メーカーに対し)「認証機関から◯◯◯を要求されました。当社発行の資料ではNGでしたので発行をお願いできますでしょうか?」
部品メーカー:
「◯◯◯はご提供が難しいです。▲▲▲という形であればご提供可能ですがいかがでしょうか?」
当社:
「A社を通じて認証機関に▲▲▲でOKか確認してみます。」
A社:
「認証機関に確認したところ、▲▲▲ではダメでした。●●●でもOKと言われたのですが、●●●なら提供可能でしょうか?」
こんなやり取りを繰り返し、認証機関からOKがもらえるまで、A社、部品メーカーとともに落としどころを探ることになります。
既に入手困難な治具、EvaKitを要求される
これも後から追加要求された実例です。 ZEAL-LE0は太陽誘電のBLEモジュール(EYSFCNZXX)を採用していますが、認証機関から要求されたのはEYSFCNZXXの開発キット(EvaKit)でした。
すぐに開発キットを入手しようとしましたが、EYSFCNZXX自体が既に型落ちだったこともあって流通在庫は見つからず、どの商社やオンラインショップに問い合わせても販売不可の回答で、結局入手することはできませんでした。
最終的には認証機関に入手困難である状況を伝え、開発キット無しで試験してもらうことができましたが(*)、開発キットを探している間は無線試験がストップしてしまったため、大きなタイムロスとなってしまいました。
その後、提出済みの無線試験用サンプルでは試験方法がわからなかったらしく、追加で無線試験の手順書(英語版)を作成、提出し、なんとか試験をしてもらうことができました。
「認証手続きは全て完了した」と言われた後で、回路図等の重要書類提出を要求される
A社のKCマーク(韓国)取得をサポートしたときの実例です。 例のごとく認証機関からは次から次へと書類を追加要求され、その度に書類提供に対応するものの、なかなか手続きは完了しませんでした。そんな折、認証機関から「これで本当に最後です。」と言われ、なんとかその書類も提供することができました。
後日、A社からも「なんとか認証手続きが完了しました。ありがとうございました。」と言われホッとしたのも束の間、その2週間後に再度A社から「最終資料が不足していると言われました・・・。」との連絡が。しかもその不足資料というのは入手困難が予想される部品メーカーの機密資料。なんでそんな重要な資料を最後の最後まで見落としてたのか・・・。こんなことも珍しいことではありません。
こういう経験は1度や2度ではありません。つまり海外認証取得というのは認証書を手にするまで本当に取得できるかわからないのです。
国際情勢の影響を受ける
海外認証取得は海外の現地当局や現地法人、認証機関との取引となるため、国際情勢の影響をモロに受けてしまうことがあります。
わかりやすい例で言えば、手続きをわざと遅らされたり、税関で止められてサンプルの授受に時間がかかったり、いわゆる「嫌がらせ」をされることがあります。認証機関の知り合いから聞いた話によると、酷い場合だと意図的に試験を落とされてしまうこともあるようです。(税関の話は当社も実際に経験しています。)
こういった国際情勢の影響を受けることは結構よくあるようで、あえて第3国を経由させて手続きを申請したり、認証機関はいろいろと「裏技」を駆使することがあるそうです。
試験機関ごとに質のバラツキがある。ランクが低い試験機関だと試験がうまく通らないことも
A社の中国認証取得をサポートしたときの実例です。 当社が無線試験の手順書を用意し、A社がそれを認証機関へ提出しました。その結果、無線試験に落ちてしまいました。(試験エラー)
試験エラーの理由を確認したところ、認証機関からは「手順書のパラメータがおかしいので正しいパラメータを教えて欲しい」と説明されましたが、ZEAL-C02はそのパラメータ値で技適もFCCもCEもBluetooth認証も取得しているので、パラメータ値が誤っているということはあり得ませんでした。
となると試験サンプルの個体不良が原因かと思いましたが、現地に送った複数の個体全てでエラーになってしまうとのこと。次に「試験用サンプルの改造方法がおかしいのでは?」と指摘されたため、改めて同じ改造を施したサンプルで簡易試験を行ったところ、ちゃんと基準内の値が計測できました。つまり、試験手順も正しければ、改造方法も正しかったわけです。
A社を通じて認証機関にその旨伝えたのですが、認証機関は「我々は間違っていない」の一点張り。当初、A社はどちらかというと認証機関側に肩入れしていたのですが、1つ1つ原因を切り分けしていき、もう当社側で対応できることは無いという段になってやっと認証機関を変更。結果、認証機関を変えたらすぐに試験に通りました。
オチとしては、認証機関の試験担当者のスキルが不足していて、適切な試験を行えていなかったのが原因でした。そんなことあり得るの?と思ってしまいますが、聞くところによると、認証機関によってはアルバイトの人が手順書を見ながら、見よう見まねで試験をやってるようなところもあるようで、認証機関も安かろう悪かろうの例外ではないそうです。
提供資料の改ざん?を要求される
A社の認証手続きをサポートしたときの実例です。 A社が「ある国」の認証手続きを行っていました。A社から要求された資料をPDF形式で提出したところ、現地当局(?)から「Word形式で提供してほしい」と言われたことがありました。理由を尋ねると「資料内の法人名を変更したいから」という訳の分からない理由でした。
当社→A社→認証機関→現地当局という流れでやり取りをしておりましたが、認証機関の担当者も「清水さん、そんなものを要求してくるなんておかしいですよね?」という反応で、「何か悪用しようとしてるのではないか?」という意見で一致しました。認証機関を通じて「Word形式では提供できない」と返答したところ、現地当局からは「じゃあ無くても良いです」と言われ、結局提供しなくてもちゃんと認証が取得できました。あれはなんだったのか未だに謎です。
これまで述べてきたように、海外認証取得の際には認証機関や現地当局から様々な資料を要求されます。基本的には全て提供できるよう努めますが、中には技術流出やコピーが懸念される「機密情報」にあたる資料を要求されることがあり、そういう場合はちょっと提供を躊躇してしまいます。実際上記例のように「悪用目的で要求してるのでは?」と疑われるケースもあるため、どうしても資料提供には慎重にならざるを得ません。そういう事情もあって「資料を入手できない」という懸念がつきまとうわけです。
上述の資料しかり、前述の開発キットしかり、もし入手困難なものを要求された場合には、認証機関に対してその旨ストレートに伝えるのも手です。無いなら無いで構わない、無いなら無いでなんとかなるというケースも少なくありません。
とにかくスケジュールの見通しが立たない
以上のように、海外認証取得というのは当初想定していなかったものを次々と要求されたり、不測の事態が起こるものであり、何かとタイムロスが生じます。
つい最近、当社のスマートロックでFCC認証を取得しましたが、事前確認していた取得期間がおよそ7〜8週間だったのに対し、実際取得に要した期間は丸5ヶ月でした(約20週)。
というわけで、海外認証取得はとにかくスケジュールの見通しが立ちません。
A社の話ですが、スムーズに取得できることを前提にE/U様と商談を進めてしまい、トラブルに発展してしまった事例もありました。
経験上、スケジュールをコミットするのは非常に難しく、そもそもちゃんと取得できる保証もありません。「スケジュールは遅れて当たり前」というスタンスで商談に臨むことが肝要であり、リスク回避につながります。
海外認証取得は無線モジュールメーカーの協力が不可欠
再三ご覧いただいた通り、海外認証取得のためには無線モジュールメーカーの協力が不可欠です。
無線モジュールを選定の際、もし海外展開を視野に入れている場合には、無線モジュールメーカーから協力が得られるかどうか、事前に確認しておくことをおすすめします。
ムセンコネクトは海外認証取得をサポートいたします
ムセンコネクトのBLEモジュール「LINBLE」をご採用いただいたメーカー様に対しては、ムセンコネクトがしっかりとサポートいたしますのでご安心ください。LINBLE搭載機器の海外展開をご検討の際は、ムセンコネクトまでお気軽にご相談ください。