【サルでもわかるBLE入門】(9) Auracast
こんにちは。ムセンコネクト三浦です。
今回も「サルでもわかるBLE入門」と銘打ってお話していこうと思います。BLE初心者の方でも理解をしてもらえるように、できるだけわかりやすく解説していきます。
第9回目は『Auracast(オーラキャスト)』という技術についてご紹介します。
わかりやすく解説する為に、BLE初心者にはあまり必要ない例外的な内容は省略して説明するようにしています。
また、あえてアバウトに書いている部分もありますのでご承知おきください。
(厳密な技術的内容を知りたいような方は別の解説書を参考にしてください。)
Auracastとは?
Auracastは、Bluetooth Low Energy通信(LE Audio)を利用して、音声や音楽などのオーディオ情報を不特定多数の人にブロードキャスト配信する仕組みのことです。「Auracastブロードキャストオーディオ」という言い方をする場合もあります。
今後、個人が所有しているワイヤレスイヤホンやスマートフォンがAuracastに対応していくことが期待されています。
Auracastを利用すると、その場所に居る多くの人にオーディオ情報を配信することができます。
誤解を恐れずに言うと、数十メートル範囲の人に配信できる簡易ラジオのようなイメージです。
それを、送信側は小型の機器で簡単に配信でき、受信側は普段使っているワイヤレスイヤホンで聞くことができるようになるというのが、面白いところです。
場所(施設など)を管理する人にとっては、その場所に応じた特色のあるオーディオ情報を簡単に配信することができるようになります。うまく工夫すると、その場所を訪れた人に対して、魅力を伝えたり、利便性を向上させることができるでしょう。
Auracastの利用シーン
Auracastは以下のような場面で利用が期待されています(ほんの一例です)。
ツアーガイドシステム
観光地などで、ツアーガイドが拡声器を使って観光案内をしている姿をよく見かけます。拡声器は昔より随分小型になって持ち運びやすくなりました。
観光地では人が多く賑わっているため拡声器がないと、ツアー客に案内音声が届かなかったりします。あまり大きな音に拡声してしまうと、周りの人に迷惑になってしまいますし、調整が難しいところです。
Auracastを使うと、ツアーガイドが持ち歩く機器はもっと小型で実現できます。ツアー客は、普段自分が利用しているワイヤレスイヤホンを利用して、喧騒の中でもクリアな音声でガイド音声を聞くことができるようになります。
多言語での同時配信
色々な国の人が集まるセミナーなどでは同時通訳が欠かせませんが、今現在だと高価な専用の機材を利用して実現しています。レシーバー機器は使いまわして利用しますが、耳に身に付けるものなので使用後は毎回消毒をする必要があり、手間がかかります。
Auracastが普及すると、聴講者は普段自分が利用しているワイヤレスイヤホンをそのまま使うことができます。セミナー会場についたら、聴講者はスマートフォンを操作して、ワイヤレスイヤホンで聞きたい言語を設定します。
今後、このようなPAシステム(Public Adress System)と呼ばれる分野での活用が増えてくるのではないかと思われます。
※PAシステムとは、公的な場で話者の声を拡声して届ける際のマイクやスピーカー等の音響システムのことを指します。
Auracastの仕組み
AuracastはBluetoothの『LE Audio』の形態の一つです。
LE Audioは大きく以下の2つに分けられますが、AuracastはそのうちのBroadcast型の通信にあたります。
Bluetooth Low Energyでブロードキャストといえば、iBeaconなどのビーコンの技術を思い浮かべますが、実はAuracastはビーコンの技術を進化させたものです。
BLEビーコンには送信できるデータ量が少ないという欠点がありましたが、拡張アドバタイズの仕組み、更にはBroadcast Isochronous Stream(ブロードキャスト アイソクロナス ストリーム)という仕組みを利用することで高密度にデータをストリーミング配信しています。
Auracastは、トランスミッター(Transmitter・送信機)、レシーバー(Receiver・受信機)、アシスタント(Assistant)の3つの要素で構成されます。
その名の通りトランスミッターはオーディオ情報を配信し、レシーバーはオーディオ情報を受信します。
アシスタントは、レシーバーに対してどのトランスミッターのオーディオ情報を受信するか選択する役割を持ちます。
トランスミッターは、オーディオ入力端子を持った専用の機材になります。そのうち、TVやAV機器に内蔵されるようになるでしょう。レシーバーは概ねワイヤレスイヤホンとなります。アシスタントは概ねスマートフォンになります。
アシスタントの役割がイメージしづらいかもしれませんので深堀りしておきます。
以下のようなイメージになります。
スマートフォンがWi-Fiのアクセスポイントを検索して接続する時の操作と似たような操作になります。
周囲にあるトランスミッターの一覧が表示されて、その中から聞きたい内容を選択します。トランスミッターによっては受信する為にパスワードが必要なものあります。
Auracast対応製品
Auracastに対応した製品は下記のサイトから確認することができます。
2024年12月現在で82製品しか登録されておらずまだまだ少ない印象ですが、これから急激に増えていくものと思われます。
ロケーションのAuracastブランド化
場所・施設を管理する人は、Auracastに対応した場所・施設であることを表明しブランド化することができます。
以下のサイトに登録することで、場所・施設にAuracastのロゴを掲示することができるようになります。
ロゴを掲示することで、Auracastに対応したユーザーフレンドリーな場所・施設であることをユーザーに伝えることができ、その場所・施設の付加価値を高めることができます。
Auracastブランド化のプロセス
場所・施設のAuracastブランド化は以下のプロセスで行われます。
①Auracast™ 送信機を設置する。
Bluetooth SIGのガイドラインに沿って、Auracast送信機を設置します。
②場所・施設の位置情報を登録する。
Bluetooth SIGのサイトからAuracast送信機を設置した場所・施設の位置情報を登録します。場所・施設の管理会社、位置情報、Auracast送信機の情報を入力し、Auracastの商標利用に関するライセンス条項を確認して登録します。
③ロケーションのブランド化
登録が済んだ場所・施設は、その建物内、ウェブサイト、および販促資料全体でAuracast商標・ロゴを使用することが出来ます。
今後、前述のサイトからAuracastに対応した場所・施設を検索することが出来るようになる見込みです。
※2024年12月現在では、まだ検索することは出来ません。
Auracastの今後
Bluetooth5.2でLE Audioがリリースされたのが2020年1月です。だいぶ時間がかかってしまった印象ですが、ようやく社会実装が見えてきた段階だと思います。
本格的に普及するにはまだ時間がかかるとは思いますが、Auracastによって描かれる未来がどのように実現されていくか今後が楽しみです。
今回はAuracastについてお話しました。
次回もBLEの技術要素について深堀りしてお話したいと思います。