【無線規格解説】サルでもわかる『セルラーLPWA』とは?特長・用途は?
こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら)
今回は太陽誘電株式会社の小網氏、村田氏をお迎えし、「セルラー系LPWA」の基礎や特長、用途について解説していただきました。
「セルラー系LPWA」と「ノンセルラー系LPWA」の違い
水野)
今回は太陽誘電のお二人から「セルラー系LPWA」について解説していただきますが、まずは小網さんから「セルラー系とノンセルラー系の違い」について教えてください。
小網氏)
まず「LPWAとは何か?」についてですが、「Low power wide area」の略称で、その名の通り非常に少ない電力で距離を稼げる無線通信規格の一つです。簡単に言えば省電力で数キロ〜数十キロのエリアをカバーできる無線規格だとご理解いただければと思います。
『LoRa』『Sigfox』『NB-IoT』『セルラーLPWA』など、種類は何種類かに分かれますが、大きく「セルラー系」と「ノンセルラー系」の2つに分類されます。
図2は「LPWA」の各規格を、縦軸をスループット、横軸を通信距離としてマッピングさせた図です。今回詳しくご説明する「セルラー系LPWA」は黄色の3つ。その他の青色が「ノンセルラー系LPWA」となります。
水野)
図2を見たときに、「セルラー系LPWA」は通信距離は同じくらいなのにスループットは異なるというのが特徴的だと感じました。何か理由があるのでしょうか?
小網氏)
「セルラー系LPWA」は基地局との通信を意識されています。基地局はいろいろな場所に多数設置されていますので、「端末と基地局との通信」という意味では同じような通信距離になりやすいと考えられます。その上で、各規格ごとに特徴がありますので、用途や条件に合わせて使い分けていただくのが良いと思います。
「LPWA」のもう一つの分け方として、ダイレクトにネットワークに参加する「基地局サービス型」と親子通信を経由してネットワークに参加する「プライベートネットワーク型」に分けることができます。「基地局サービス型」は機器に「LTE」を搭載しているので、電源をオンすれば基地局経由でネットワークに参加することができます。「プライベートネットワーク型」は『LoRa』や『ZETA』のような「LPWA」通信を使って子機から親機となるゲートウェイに一旦データを集めます。そこから「LTE」や「イーサネット」を使ってネットワークに参加します。
「セルラーLPWA」の機能やスペック、特徴は?
水野)
ここからは太陽誘電の村田さんに解説していただきます。「セルラーLPWA」ならではの機能や特徴について教えてください。
村田氏)
「セルラーLPWA」の特徴は、インフラの整備をしなくても「既存のLTE基地局」を利用して通信できる点です。よって端末を準備して通信事業者と接続契約をするだけで通信運用が実現できてしまいます。
そして設置設定や接続設定が容易である点。端末の電源を入れるだけでネットワークとの接続が可能になります。
最後に低消費電力な機能を使って電池駆動が可能な点です。「DRX」「eDRX」「PSM」といった3つの省電力モードが用意されています。「DRX」は通常の携帯電話の待ち受けと同じような状態です。1.28秒ごとに着信の待ち受けをします。「eDRX」は着信待ち受けを延長(エクステンド)できるモードです。最長数十分の間隔で待ち受けすることで省電力を実現します。「PSM」は次の着信の待ち受けに対して端末側がタイマーをかけることができます。長時間スリープさせておくことで省電力化が可能となります。
水野)
続いて「セルラーLPWA(LTE)」のスペックについて教えてください。
村田氏)
使用する周波数帯は700MHz〜3.5GHzです。
通信距離は通信状態に影響を受けるものの、およそ数キロメートルの範囲で使用可能です。
通信速度も通信環境やは端末の仕様によって差異がありますが、「Cat-M1」で数百kbps、「Cat-NB1」だと数十kbps程度といった感じです。
消費電力はeDRXモード利用時で1日2回のデータ通信を想定した場合、3,000mAhの電池4本の電力で約10年の長期運用が可能と試算されています。
通信料は使用頻度や利用するデータ量によって変わってくるため、契約するSIM提供会社に確認が必要です。各社さまざまなプランを用意しているので条件に合わせたプラン選択が可能です。
「セルラーLPWA」のメリット・デメリット
水野)
では「セルラーLPWA」のメリット・デメリットについて教えてください。
村田氏)
まずメリットとして挙げられるのは双方向通信が可能な点です。携帯電話と同じように端末が別の端末やデータサーバと双方向で通信可能です。次に既設の基地局やインフラを使って通信が可能な点が挙げられます。3つ目は設置設定が容易な点です。端末の電源を入れるだけでネットワークに参加することが可能です。これら3つが大きなメリットと考えられます。
次にデメリットについては、携帯通信網を使用するためキャリア通信費用がかかる点です。それと端末が基地局の通信可能圏内になくては通信ができない点です。いま現在は多くのエリアを基地局がカバーできていますが、基地局の圏外になってしまうエリアでは利用できないのがデメリットといえます。
「セルラーLPWA」の用途や事例、太陽誘電の取り組み
水野)
「セルラーLPWA」の特徴やメリット、デメリットについてご説明いただいたところで、「セルラーLPWA」の活用が期待されている用途や事例を教えてください。
村田氏)
「スマートメーター」ではすでに「セルラーLPWA」の活用が進んでいます。水道やガスといったインフラの遠隔監視、自動検針、異常検知に使われています。次に「スマートロック」での活用も検討されています。鍵の開閉状況を監視したり、遠隔からの開閉制御ができるようになると考えられています。そのほかにもガス漏れ警報器の故障診断や異常検知、防災照明(非常口)の遠隔監視やリモートメンテナンスなどもできるようになると期待されています。
水野)
では太陽誘電におけるセルラーLPWAの取り組みについて教えてください。
村田氏)
太陽誘電の強みは「回路商品」、特にBluetoothやワイヤレスLANなどの無線モジュールを製品として扱ってきましたので、それらの豊富な開発経験や製造経験、販売実績を有しております。それを高品質で実現してきたというのが強みです。そしてユーザーに寄り添った親切で丁寧な技術サポート対応でお客様の課題を解決してきました。蓄積してきた我々の経験をお客様にフィードバックしていますし、モジュール周辺の回路レビュー、アンテナマッチングや測定のサポート、充実した技術資料もお客様に提供可能となっております。
水野)
「セルラーLPWA」のデメリットにもありましたが、お金(通信料)がかかるという部分がやはりちょっと気になるところです。SIMやキャリアの選定についてなにかアドバイスをいただけないでしょうか。
村田氏)
まずお客様が使用可能な通信網として、「MNO(Mobile Network Operator)」と呼ばれる、いわゆる主要3キャリア様があります。次に「格安SIM」といわれるような、インフラを有していないものの主要キャリア様のネットワーク(基地局)を使用することで通信を実現されている「MVNO(Mobile Virtual Network Operator)」と呼ばれるSIMベンダー様もいらっしゃいます。そういった多種多様なSIMの中から使用用途に応じてSIMをお選びいただけます。プランも各SIMベンダー様ごとにいろいろ用意されていますので、そちらをご確認いただいて一番良いものを選べるという自由度があります。
水野)
ということは携帯電話のキャリアを選ぶような感覚で、たとえばコストを安くしたければ「格安SIM」を契約するようなイメージで「セルラーLPWA」も「SIM」の選定をすれば良いということですね。
村田氏)
そうですね。太陽誘電では様々なSIM、様々な通信環境に対応できるように、「マルチキャリア」に対応したモジュールもラインナップしています。