注目すべきLPWAの先行事例3選と現時点での予測
こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら)
前回『最適な無線化を実現するために!今知っておきたい10の無線通信規格』の中でLPWA(Low Power Wide Area)を取り上げました。
これまでにもさまざまなLPWAの通信規格が出てきては試されています。さらにその中には実証実験フェーズを終えて実運用への提供を開始し、多くのユーザーからの期待が高まってはいるものの、現時点である特定の通信規格がLPWAの主流となるには至っていません。
そこで今回は、最新のLPWAのトレンドにはどのような革新的な取り組みがあるのか、その先行事例を見ながら注目ポイントを探ってみたいと思います。
事例1:Sigfoxのガラスパレットの位置管理システム
これは、LPWAを物流資材管理システムに上手く組み込んだ事例としてご紹介します。AGC株式会社は2020年3月から、ガラス輸送に使用される大型パレット(鉄製の荷台)約1,400台を対象にした位置管理システム「パレットIoTシステム」を導入し、日本国内での本格運用を開始しました。
導入背景として、
- 一般的に、国内で流通しているガラスパレットのうち、毎年約1割が回収不能
- 回収不能のため、パレットの追加製作コスト増
- パレットの所在地を把握できず滞留・散在がある一方、必要な状況・場所で不足が発生
するなど、物流業における非効率化に繋がっていたことが課題でした。
この「パレットIoTシステム」に利用されているアルプスアルパイン株式会社製の物流資材管理用IoTモジュール「物流トラッカー」は、SigfoxのグローバルLPWAネットワークと組み合わせたことで、10年以上稼働可能かつ屋内外シームレスな位置情報の管理を実現しています。
出典:AGC株式会社
位置情報の測定には、歩行者ナビゲーションアプリの普及により一般化した特定位置にあるWiFiアクセスポイントを位置ビーコンとして利用しました。また、物流資材が特定の動きをした際や一定の時間経過(1日単位など)ごとに計測を行うことで不要な通信を削減しました。これにより物流資材そのものの耐用年数に匹敵する10年以上の無充電連続稼働を実現しました。また、物流現場で必須条件となる対衝撃性を確保し屋内外で利用可能なIEC規格IP67パッケージに収めたことで実用性に優れたトラッキングモジュールになっています。
このトラッキングモジュールから送信される情報を地図上に一覧表示し、各パレットの位置情報、移動履歴、滞留情報などを可視化します。物流担当者はパレットの位置や動きをリアルタイムで把握することにより、輸送業務を効率化するとともにパレットの滞留・紛失を防止することができます。
事例2:ELTRESによる航空障害灯の遠隔監視
これは、ELTRESを送電設備の監視に上手く組み込んだ事例としてご紹介します。東北電力株式会社、NECネッツエスアイ株式会社、株式会社サンコーシヤは2020年3月から「ELTRES IoTネットワークシステム」を活用し、東北電力が所有する送電設備の監視において、ELTRESの通信端末と受信局間のデータ送受信状況の確認や実環境での耐久性等を確認するため、宮城県内での実証実験を開始しました。
検証背景として、
- 送電鉄塔にある航空障害灯の点灯状況や故障区間標定装置※の動作状況を確認するには現場パトロールによる目視
- 山間部や遠方に広範囲かつ多数設置された送電設備の場合、現地までの移動に時間を要している状況
など、安全面や業務効率化といった観点から様々な対策が必要でした。
※故障区間標定装置:送電線路において地絡事故等が発生した場所を特定するための装置であり、一定区間の鉄塔に設置されている。不具合区間を特定させることにより巡視などの効率化を図ることができる。
今回の実証実験は、通信端末と受信局間でELTRESを利用して通信し、電波を受信することで、データ送受信の可否を確認しています。
出典:東北電力株式会社
ELTRESは通信距離が見通し100kmと言われており、山間部などの通信困難な環境下でも使用できる可能性が高いこと、LPWAの特徴でもある消費電力が小さいため小型バッテリーを組み込んだ構成で数年間データ取得することで、事務所にいながら送電設備の状況を確認することが可能となり、送電線路事故時の故障個所の早期発見に役立つなど、業務の効率化が期待されています。
事例3:ZETAによる熱中症リスク表示サービス
これは、ZETAをリアルタイムで個人に合わせた熱中症リスクを表示するサービスに組み込んだ事例としてご紹介します。凸版印刷株式会社、東京理科大学は2019年7月から9月までZETAを活用し、数メートル空間単位で熱中症に関するデータを収集・分析、熱中症リスク評価とZETA通信の連動性の確認などを行う実証実験を実施しました。
検証背景として、
- 地球温暖化や都市温暖化の影響による気温上昇で熱中症リスクが増大
- 個人の行動パターンや属性(年齢・性別・着衣量・活動状況など)、地面からの距離、周囲の環境による熱中症リスク度合いの評価が困難
- 屋外労働者の労務管理や市民に向けた防災面が不足
など、ユーザー側の実情に沿ったより細かいエリアでの測定や個人の状況を考慮したリスク評価が必要でした。
今回、移動可能なセンサによるデータ取得と通信に活用するZETAの特長である中継器によるマルチホップにより、LTE(携帯)電波が届かないエリアでも通信環境を延長でき、山間部などの遠隔地含めた広範囲なエリアの熱中症リスクを表示するサービス開発に取り組みました。
出典:凸版印刷株式会社
これにより、従来では取得が難しかった市区町村よりもさらに細かいエリアにおける熱中症リスクのデータ取得を実現し、ユーザー個人の属性・体感とセンサで取得した気象データを連携することで、従来の気象データによる熱中症リスク測定では考慮されていなかった個人に合わせたリスク表示にサービス開発が期待されています。
最後に)現時点での予測
LPWAを提供する通信事業各社は、間違いなくこの分野についての検証や実運用によるビジネス展開を始めており、各通信方式の実力やそれを活用して提供できるサービスを色々と模索しているようです。そして2021年の予測では、世界のLPWAの台数は3億台を上回るとの見方※をしています。
※出典:総務省「IoT化する情報通信産業」
LPWAの出荷推移及び予測は、年々拡大しているものの、まだまだ日本ではあまり馴染みのない通信規格かもしれません。物流・資産管理、セキュリティ・スマートビル、インフラ・環境監視、スマートメーター、エネルギー生産にとっては、大きなポテンシャルがあるものの、その手法などは始まったばかりでまだはっきりしていないのが事実であり、今後一段と世の中に浸透していくことが望まれます。