【NGなし】ノルディック・セミコンダクター日本責任者に直接質問をぶつけて、全て答えてもらいました!後編
こんにちは、ムセンコネクトCEOの水野です。(プロフィール紹介はこちら)
今回は特別ゲストとしてノルディック・セミコンダクター株式会社の山崎氏を迎え、普段皆様が気になっているようなテーマを、NGなしで直接質問をして答えていただきました。
Q.3) 正直な所、Bluetoothで期待外れだった機能は?
水野)
Bluetoothといえども万能な無線通信規格ではありません。正直な所、山崎さんの目から見てBluetoothで期待外れだった機能があれば教えてください。
山崎氏)
あまり大きな声では言えません(笑)が、Bluetooth SIGのWEBサイトを拝見すると色んなことができると記載があります。確かに、論理的にはできそうだが現実的にはハードルが高いというものがいくつかあります。
その中でも期待外れだった機能の代表的なものは『Bluetooth mesh』です。
BLEが登場し、省電力でのセンサーテクノロジーが実証されて以降、特にIoT分野に向けてBluetooth meshが期待されていました。ところが、meshの仕組み上「コネクトせずに、きたものをそのままリピートして吐き出す」を繰り返すため、消費電力が高くなってしまいます。よって、照明のような電源が随時供給されている用途では実際に使用されている実績があるものの、バッテリー駆動で利用するにはかなり厳しいテクノロジーになっています。
ですので、Bluetooth meshは残念ながら、当初皆さんが期待されていたような熱から冷めてきており、IoT分野で使用するにはかなりハードルが高い機能になっています。
もう一つ、期待外れだった機能は『Direction Finding』です。Bluetooth 5.1から搭載され、Bluetooth mesh同様論理的には可能な技術です。但し、あらゆる環境下においてDirection Findingを安定して動作させるのは容易ではありません。例えばスマートフォンのBluetooth通信を利用する際でも「ある環境では届くが、ある環境では届かない」といったように、場所や人の存在など、周辺環境で接続性が変わる場合があります。壁の反射や電波の吸収なども影響を受けます。よって、Bluetoothのチップやモジュールを購入してきて、Direction Findingのソフトウェアを開発すれば動くといった単純なものではありません。さらに難しいアンテナ設計に加え、方向検知のアルゴリズム設計も絡み合い、技術的なハードルが高くなっています。
つまりDirection Findingは、電波環境が常に一定の条件下であれば問題ありませんが、障害物の有無など様々な環境下で安定して動作させるのはかなり難しい機能になっています。
Q.4) グローバルでは無線チップを使った製品・サービスはどのような状況、最新トレンドがあるのか?
水野)
グローバルの最新状況、特に無線チップを使った製品やサービスに関して何かトレンドや事例があれば教えてください。
山崎氏)
世界で注目されている無線技術という観点で言えば『セルラーIoT』『DECT NR+』『エッジコンピューティング』の3つが挙げられます。
まず、一つ目が『セルラーIoT』です。
クラウドとの連携を色んな場面で利用できるように、LTE-MやNB-IoTに代表されるようなセルラーIoTが注目されています。
その際、クラウドとの連携を実現するうえで、非常に重要なのが『ソフトウェア』です。
デバイスのファームウェアだけではなく、クラウドサーバー上のソフトウェアなども重要になってきます。そこで、ノルディックでは世界的なトレンドに対応するため、基本的にはチップやモジュール単体を販売しているものの、これまでなかった『nRF Cloud』という、クラウドを中心としたソフトウェアの提供を商業ベースで開始しています。
二つ目が『DECT NR+』です。
DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunicationsの略)はコードレス電話機の標準規格のことです。そこからさらに新たな規格として『DECT NR+』がアナウンスされました。基本的にはセルラーテクノロジーを使い、非サブスクリプションで大規模なネットワーク化に適した規格が、おそらく2022年後半から2023年にかけて立ち上がろうとしており、この点についてもパートナー企業とともにDECT NR+に対応したソリューションを開発しています。
最後は『エッジコンピューティング』です。
日本だとどうしても「とりあえず、クラウドにあげておけばなんとかなる」という考え方が従来はありましたが、そうするとデバイス側から送信するデータ通信量も多くなり、その分余計なコストが掛かってしまうため、あまり得策とは言えません。そこで、末端のデバイス側でエッジコンピューティング(データ処理や解析)することで、必要最小限のデータだけをクラウドにあげるようなソフトウェアの実装が進んでいます。
中には、我々の無線チップを使い、コインバッテリーで動くような小さいデバイスを開発している事例も海外では増えてきています。その中には、セルラーが搭載されていたり、マシンラーニング(機械学習)やAIのようなテクノロジーを使ってよりクレバーな動きをするものもあります。
よって、最近は「より高機能で集積度も高くなって、色んなアルゴリズムが無線チップの中で動く」というトレンドが進んできています。
海外のトレンドはいずれ日本にも来る?
水野)
今海外で起きているトレンドはいずれ日本にもやってくるのでしょうか?
山崎氏)
これは、世界のマーケットの中で日本企業がどういった立ち位置を取るかによっても変わってくると思います。
海外では産業用途から民生用途まで様々なプレーヤーが多く存在しているのに対して、日本では民生用途を手掛けるプレーヤーが少なくなっており、産業用途や商業用途が主流になってきています。但し、コロナ禍以降、日本だけでなく、世界でも産業用途や商業用途などのtoB向けのアプリケーション事例が大幅に躍進しています。その際は、「必要な機能に絞り込んで、できるだけ短い開発期間で製品化できるか」がキーになります。
後は、『開発スピード』も非常に重要です。特にEco-Systemに絡む部分などは開発の負荷も大きく、全てを一社単独で行うには難しくなってきています。上手くパートナー企業を活用することで、効率的かつ迅速に連携して、できるだけ短期間でいいものをだしていく、そこが海外は早いです。
日本企業の方々にも今挙げたような点を意識し、強化していただければこの先は明るいと思っています。